湯川遥菜さんとされる遺体の写真とともに後藤健二さんとみられる男性の音声メッセージがネット上に公表された翌日の25日、
イスラム国系のラジオ局バヤーンでひとつの“ニュース”が報じられた。
「もう一人の日本人人質(後藤さん)は、自分の解放と引き換えにリシャウィ死刑囚を釈放させるよう日本政府に圧力をかけてくれと懇願した」
イスラム国側が、英語によるこのメッセージの内容をチェックしていることは明らかだ。用意された文章を読み上げさせられている可能性も極めて高い。
しかしバヤーンは「客観報道」を装うことで、後藤さん自らの発言であるかのように印象を操作しようとしているのだ。
イスラム国は、内外に向けてこの種のプロパガンダを多用している。
2012年11月にシリアで拘束された英国人ジャーナリスト、ジョン・キャントリー氏は、米国主導の有志連合によるシリアでの空爆に先立つ14年9月、
突如、ネット上のイスラム国宣伝ビデオにプレゼンターとして登場した。
イスラム国が人質に着せるオレンジ色の服を身につけたキャントリー氏はビデオで、「(視聴者は)私が人質だから、
こんなことを強制されている、と思っているのでしょう」と語る。そして、「それは否定しません。しかし、自国政府に捨てられた私に、失うものはないのです」と自発的な出演だと強調するのだ。
視聴者の疑問をいったんは認めることで公平さを演出した上で、自分をイスラム国側に追いやったのは政府だと責任転嫁する。主張に説得力を持たせる巧妙な作りとなっている。
キャントリー氏はその後もイスラム国系メディアの“記者”として戦場リポートを行い欧米での報道内容を否定するなど、結果としてイスラム国のプロパガンダの担い手となっている。
どのような経緯でそうした立場に置かれているかは不明だ。ただ、イスラム教に改宗しながらも殺害された欧米人の人質もいる中、
イスラム国が同氏を2年以上も殺害せずにいるのは、ジャーナリストとしての経験や技能を利用するためである可能性は高い。
イスラム国はこのほかにも、英字オンライン機関誌「ダービク」を発行。ネット上で入手可能な同誌は、写真を多用した欧米商業誌も顔負けの作りで、
「信仰に目覚めたり、戦闘行為に関心を持ったイスラム教徒にイスラム国の主張を訴える重要なツール」(専門家)となっている。
さまざまな手法のプロパガンダを駆使するイスラム国。声高に叫ぶ戦闘的なメッセージだけでなく、公平さを巧みに装う狡猾(こうかつ)さもあわせ持っている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150130-00000534-san-m_est