ソース(日本経済新聞・社説)
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO68144530S4A310C1EA1000/ 東日本大震災では、自治体や流通、メディアなど生活を支えていた仕組みが一時、機能しなくなった。見直されたのが助け合いや
きずなの大切さだ。個人や集団など「民」が築いてきたつながりを、現代版の安全網として確かなものにしたい。そのために生かしたい
のがインターネットだ。
■非常時にネットが威力
震災ではソーシャルメディアが助け合いに貴重な役割を果たした。米検索大手のグーグルは、マスメディアでは伝えられない個人の
安否情報をネットで配信した。個人が発する現地の情報を、デジタル地図の上で共有できるようにしたボランティアサイト「シンサイ・
インフォ」も活躍した。
サイトを運営した起業家の関治之氏は「震災の経験から、今年2月の大雪で山梨の集落が孤立した時にも、同種の情報共有サイトが
すぐに立ち上がった」という。野村総合研究所の調査でも、震災時は行政や民放テレビよりネットの方が役立ったという声が多い。
情報通信インフラの大切さにも気づかされた。福岡市では震災時に携帯電話がつながりにくかった反省から、行政と地元企業が
協力し、駅などに無料で使える公衆無線LANを配備した。
普段は外国人などに無償で提供し、観光に役立てている。「非常時にはあらゆる人に開放し、災害情報を共有する」と高島宗一郎市長。
関心が薄かった議会も、震災で一気に変わったという。
企業や行政の情報管理の手法も変わりつつある。これまでは縦割り文化や自前主義から、重要なデータは組織内で管理してきた。
しかし、津波でカルテや住民基本台帳がコンピューターごと流され、支援で大きな混乱を招いた。
そこで注目を集めたのが、情報を外部のデータセンターに預けて使う「クラウドコンピューティング」だ。総務省などの調査によると、
クラウドを活用する企業は震災前には15%前後だったが、今では半数近くに増えた。金融機関が本社から離れた沖縄にデータを保管
するなど、新産業も生む。
携帯端末やセンサーなどから集まる人や車の動きなどの膨大なデータ、いわゆる「ビッグデータ」を解析し、防災や街づくりに役立てる
動きも目立つ。NTTドコモは携帯電話の位置情報をもとに、小さなエリア単位で人口を把握する技術を開発した。帰宅困難者数の推定
などに役立つ。
普通の人々が発するデータを、企業が集め、広く公開し、皆で活用するわけだ。統計情報を役所などが独占していては思いつかない
活用法も期待できる。
個人が情報を発信できるネットは、草の根の活動を支える力にもなる。途上国援助をしてきたボランティア団体の多くが、震災で
被災地の支援に向かった。活動を動画や写真付きでネットに公開すると、同世代が汗を流す姿を見た若者が初めてのボランティアで
東北へ――。そんな現象が起きた。
設備が被災した中小企業がネットで寄付や投資を募る動きも、震災から目立ち始めた。見返りは生産を再開した後の自社商品。
投資と支援と消費が一体となったつながりが、生産者と消費者の間にでき、都会の消費者が産地を訪れるといった新たな交流も生む。
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>>2以降に続く)
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>>1の続き)
■被災地での起業も促進
ネットの先には具体的な出会いがある。災害の場を起業やビジネスの舞台ととらえるのも新しい流れだ。NPO法人ETICは被災地の
企業などに、これまで182人の若者を派遣した。派遣期間を終えた96人の社会人のうち、60%が自主的に現地に残って就業している。
起業した人も16%いる。
被災地で育った若者が、支援で訪れた外資系企業の社員と触れることで海外留学を目指したり、日本企業がNPOと組むノウハウを
得て、不慣れだった途上国ビジネスに乗り出す契機をつかんだりもしている。さまざまな可能性の芽が被災地で生まれつつある。
震災体験の風化が心配されている。だが現地の状況や必要な人材、寄付金の使われ方など、詳しく効果的に情報を発信すれば、
草の根支援を掘り起こす可能性はまだ十分にある。今後の課題だ。
きのうで震災から3年。午後2時46分には各地で人々が黙とうをささげた。震災から1つでも多くのことを学び、これからの日本の変革
に生かしていきたい。
(終わり)