★原発の輸出/安全確認の仕組みに難点
政権が成長戦略に組み込み、安倍晋三首相がトップセールスに努める原発輸出。
その手続きに不備が表面化している。
ベトナムへの輸出をめぐり、相手側の原子力安全規制などを点検する政府の「安全確認制度」が整っていないのだ。
東京電力福島第1原発事故後、国内で原発建造を見越せない業界は海外展開を重視、政権も後押しする。
が、輸出に前のめりになるあまり、形式的な安全確認で済ますようなら、国際的な不信感を高めよう。
ベトナム政府は日本から原発2基を輸入することを決めている。1基数千億円とされる。
日本はこれまでの部材輸出から脱し、原子炉建設、運転・保守、低利融資をセットにした
「パッケージインフラ輸出」を官民一体で進める構えだ。
安全確認は国際協力銀行による支援融資の条件とされる。
このため、日本がベトナムと約束した原発の輸出、建設計画に影響が生じる可能性もある。
原発の部材などを輸出する際、(1)相手国の原子力安全規制や態勢に欠陥がないか
(2)原子力安全の国際ルールを守っているか(3)日本メーカーが設備の保守・補修に対応できるか
−の3項目について、経済産業省の旧原子力安全・保安院を中心に審査してきた。
福島の事故を受けて原子力規制委員会が昨年9月に発足。旧保安院から原子力規制の権限を引き継いだ。
ただ、規制委は独立性の観点から「海外向けの安全配慮には関与しない」と回答。
安全確認を担う機関が宙に浮いた格好になっている。
融資は「経産省による安全審査が条件になる」(国際協力銀)とみられる。
実際、経産省が安全確認を行うとすれば、原発推進と安全規制という対極の関係にある業務を同じ省内で実施することになる。
規制部門を切り離した意味が損なわれる。
安全確認ができたとしても、透明性の確保を誰がどのように担保するのか課題は残る。
日本の反原発団体は「情報公開の不足」「貧しい建設地への原発マネーの流入」
「地元住民の声が政権に届かない」など、日本と同じ図式にならないか不安視する。
発電が開始されれば、使用済み核燃料や放射性廃棄物の処理という難題が発生する。
重大な事故やトラブルが起きた場合、責任の所在も問題となる。
原子力安全条約は事故責任を「原発を規制する当該国が負う」と規定。
政府は「日本企業が海外での原発事業に参画することで、日本政府が賠償に関わる財務責任を負うものではない」との立場だ。
だが、製造元責任を定める国もあり、米国では輸出に対する消極論も出ているという。
三菱重工業などの企業連合が29日、トルコ政府と原発建設受注で合意、福島の事故後、初めて日本の原発輸出が実現する。
事故原因を徹底解明し、安全を確認する制度も整えるなど丁寧に手順を踏むべきで、安全神話の輸出であってはならない。
河北新報
http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2013/10/20131031s01.htm