ネアンデルタール人は“アスピリン効果”を知っていた!?
最近の論文によると、ネアンデルタール人の顎の化石から歯科治療の跡が見つかったという。歯周病の歯や歯茎にはさまった食べかすを取るために楊枝を使
い、痛みや腫れも和らげていたらしい。とくにヤナギから作られた楊枝にこうした効果のあることは、古くから我々現生人類にも知られており、1世紀前には有
効成分を基に解熱鎮痛剤「アスピリン」も作られた。ネアンデルタール人も、この“アスピリン効果”を知っていたのだろうか。
歯科治療の最古の証拠
論文は米国のオンライン科学誌『PLOS ONE』に10月16日掲載された。スペインの研究グループが、バレンシア地方の「コバ・フォラダ遺跡」で発掘された5万
〜15万年前のネアンデルタール人の上顎の化石を調べた。残っていた歯は摩耗が激しく、歯肉炎の腫れが骨まで達していた。それら2本の歯の根元には楊枝で削
られたような細い溝もあったのだ。
「植物から作った楊枝を使って歯茎の痛みを緩和するのは、基本的な歯科治療の一つだ」と研究者は述べ、今回の発見が、我々と同じホモ属の人類として、
楊枝を使う最も古い習慣を持っていたこと示しただけでなく、苦痛緩和を目的とした歯科治療の最古の証拠となるのではないかという。
会話や埋葬の文化を持っていたネアンデルタール人
ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)は、約20万年前に出現し、約3万年前に絶滅した、我々現生人類(ホモ・サピエンス)に最も近い親戚
だ。近年の研究では、ネアンデルタール人も会話し、埋葬の文化や独自の装飾文化を持っていたとされる。さらに治療のために薬草を使っていた証拠もスペイ
ンの洞窟から見つかったことから、楊枝の“薬効”についても知っていた可能性がある。
「楊枝」の語源は、中国で昔、歯が痛い時にヤナギ(柳、楊)の小枝の先をかじってほぐし、歯間をこすったことにある。楊枝は、日本では平安時代から使
われてきたという。こうした楊枝の医学的な効果については西洋でも古くから知られ、今から約2500年前の古代ギリシャでは、“医学の父”ヒポクラテスがヤ
ナギの樹皮や枝から鎮痛剤を作ったとされる。
人の先祖がネアンデルタール人から知恵を受け継いだ?
19世紀になってヤナギの有効成分が取り出され、ヤナギのラテン語「サリックス」から「サリシン」と名付けられ、その鎮痛作用の正体となる「サリチル酸
」が突き止められた。1897年にドイツのバイエル社(化学者ホフマン)が、サリチル酸の強い副作用(胃腸障害)を抑えるためにアセチル化した「アセチルサ
リチル酸」の合成法を開発し、2年後に「アスピリン」の商品名で販売を開始したことから、世界中に広まった。今ではアスピリンには解熱鎮痛作用のほかに、
血液をサラサラにする抗血栓作用があることも分かり、脳梗塞や心筋梗塞の予防薬としても使われている。
こうした楊枝の薬効をネアンデルタール人が知っていたとする証拠はないし、これについて先の論文も触れてはいない。しかし約6万年前にアフリカを出たと
される現生人類は、ネアンデルタール人とユーラシア大陸で共存していた時代があり、一部に異種間の交配もあったという。ひょっとして我々は、先祖伝来の
知恵をネアンデルタール人から受け継いでいたのかもしれない。
http://news.nifty.com/cs/economy/economyalldetail/thepage-20131026-10268/1.htm