★米、プルサーマル放棄へ 工場建設コスト高騰で予算削減を提言
米国が原子力発電所で使用済み核燃料を燃やすプルサーマル発電を放棄する可能性が出てきた。
米露冷戦後に大量処分が必要になった兵器級のプルトニウムを平和利用する計画だったが、
プルサーマル発電を行う電力会社が現れないことに加え、財政難の米国政府も莫大な関連予算をまかなえなくなった。
◆「負担範囲を超えた」
米国政府は米サウスカロライナ州にあるエネルギー省サバンナ・リバー核施設内で、
廃棄する核兵器から取り出したプルトニウムで「プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料」を製造する計画を進めている。
余剰プルトニウムが再び核兵器に利用されないよう商用原子炉に利用するためのMOX燃料工場の建設を目指している。
米国とロシアは3年前の核安全保障サミットで、兵器級プルトニウム34トンをそれぞれ廃棄する合意文書に調印。
これを受け両国は防衛目的にとって不要なプルトニウムが増大している。
しかしオバマ大統領は今月議会に提出した2014会計年度(13年10月〜14年9月)の予算教書で、
工場建設予算を前年度比27%減の3億2000万ドル(約317億円)に削減することを提言した。
さらに、計画そのものを破棄することも検討していると説明した。
工場建設スケジュールが大幅に遅れている上、建設コストが高騰し、当初の予想をはるかに上回っていることが理由だ。
これまでにかかった経費はすでに計37億ドルに達し、大統領は「負担できる範囲を超えている可能性がある」としている。
MOX燃料製造工場の建設計画が最初に提案されたのは1998年。米露が冷戦時代の核兵器削減に向けて動き始めた時期だった。
工場建設の請負業者は、仏原子力大手アレバ、米エンジニアリング大手ショー・グループなどの連合事業体である「ショー・アレバMOXサービス」。
米エネルギー省は、工場建設費と25年間の工場操業費用の合計を当初、18億〜23億ドルと試算していた。
しかし着工した2007年には49億ドルに高騰。さらに現在は最低でも77億ドルに引き上げられていることが、
米議会の独立監査機関、米政府監査院(GAO)が今年3月に発表した報告から分かっている。
建設工期も、当初の予定から10年以上の遅れが生じているという。
GAOによると、工場施設の最重要システム部分の設計にはいくつかの不備があるという。
エネルギー省傘下の国家核安全保障庁(NNSA)のレインズ副長官は
「施設の設計が未完成であり、正確な信頼性のあるコスト見積もりを立てられない」と説明。
これに加え決定的だったのは、MOX燃料を利用する電力会社がなくなったことだ。
◆電力大手の撤退痛手
09年には、プルサーマル発電を計画していた米電力最大手デューク・エナジーが撤退を表明。これが計画を一段と困難にした。
NNSAは今月中旬に発表した概況報告書の中で「今回の計画は米原子力産業の衰退と機を同じくして始まり、その後の数十年間、
大規模な民間の原子力プロジェクトは存在しなかった」と指摘した。
さらに「この計画が始まった当時と比べ、予算環境は当時から大きく変わっている。
われわれは困難な長期的判断を下す必要がある」との見解を示した。
米国で3つの政権が取り組んできた、核拡散防止策の見本ともいうべきMOX燃料製造計画は、
14年度の予算案をきっかけに幕を下ろすことになるかもしれない。
民主党のシルバーン上院議員や共和党のグラハム、スコット上院議員らサウスカロライナ州選出の超党派議員はオバマ大統領あて書簡で、
MOX製造会社が同州だけで2200人の雇用を創出することを訴えた上で、
兵器級のプルトニウムが盗まれて悪意ある使われ方をするという不必要なリスクを防ぐ必要があるなどと主張。計画の存続を訴えていた。
今後、NNSAは「他の実施可能な選択肢」について検討する見通しだ。
その一つとして挙がっているのが、プルトニウムを含む高レベル放射性廃棄物を長期間貯蔵する方法だ。
原発反対派や環境保護を唱える非政府組織(NGO)「フレンド・オブ・ジ・アース」は、これを支持する姿勢を見せている。
サンケイビズ
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130424/mcb1304240505016-n1.htm