★山田厚史の「世界かわら版」:TPPという外交敗北 守れなかった農業の聖域
カナダ、オーストラリアとも事前協議がまとまり、日本は7月からTPP交渉に参加する、という。
だが、どんな合意に至ったか政府は明らかにしない。日本に不利な条件が盛り込まれた可能性が高い。
先に合意した米国との事前交渉は、日本車への関税を当面存続することを認めた。
カナダ、オーストラリアにも同様の約束がなされたようだ。だが、見返りに日本の農産品に特段の措置がなされたわけではない。
つまり、すべての分野が交渉のテーブルに乗る。
●得意分野は事前交渉で封じられ 不得意分野は本交渉で「市場開放」
得意分野は事前交渉で封じられ、不得意分野は本交渉で「市場開放」が迫られる。
政府内部では「農業5品目の関税をすべて守るのは極めて厳しい」という声が漏れている。
安倍首相は「守るべき国益は守る」と繰り返すが、何を根拠にそう言えるのか。
TPPは事前協議で早くも外交敗北が濃厚になった。取り繕っても不都合な真実はいつかバレる。
7月からの交渉参加で、日本の不利益が次々と明らかになるだろう。
「TTPで安倍政権はつまずくかもしれない」。農業議員からそんな声も出始めた。
政府関係者はこう指摘する。
「5品目のうち何を守るのか。例えばコメを守るが小麦は諦める、という選択を迫られる局面が出てくるのではないか」
関税撤廃はTPP交渉の一部でしかないが、安倍政権にとって重要な政治案件だ。
関税は分類項目が数万件に及ぶが、WTO交渉などでその90%が撤廃されている。
TPPでは残る10%をおおむね3%以下まで減らそうという交渉が進んでいる。
そこまで下げるとなると日本の「聖域」は崩れてしまう、というのだ。
●武器を失い丸腰にされ交渉の土俵に立たされる
首相が交渉参加を決断する直前、自民党の農林議員は、首相一任の条件として
「コメ、小麦、砂糖、乳製品、牛豚肉の農産品5項目と国民皆保険制度」を国益として列挙し、首相は守ることを約束した。
それがもう危うくなっている。
どの国にも守りたい「弱い品目」がある。同時に「強い品目」もある。
強みを前面に出し他国を追い詰め、弱みを巧みに守って国益を貫くというのが通商交渉である。
ところが日本は、交渉の入場料として自動車という強いカードを切ってしまった。
武器を失い丸腰にされ、農業国が待ちかまえる土俵に立たされる。
発端は日米交渉だった。4月12日に明らかにされた日米事前協議の合意は、「不平等条約」とさえ言える内容だった。
米国の「弱み」である自動車はしっかり守られた。日本側が発表した合意文書に次のように書かれている。
「(日本車に対する)米国の自動車関税がTPP交渉における最も長い段階的引き下げによって撤廃され、
かつ最大限後ろ倒しされること、この扱いは米韓自由貿易協定における米国の自動車関税の取り扱いを実質的に上回るものとなることを確認」
分かりにくい表現だが、日本車に課す関税はTPPが許す最大限の猶予期間いっぱいに存続し、
米韓自由貿易協定で韓国車の関税が無くなった後も残るということだ。
これだけではない。
「弱い」米国車を日本に売り込むため「TPP交渉を並行して自動車貿易に関する交渉を行うことを決定」と記されている。
世界で売れている米国車が日本で売れないのは、日本の制度やビジネス慣行に非関税障壁があるからだ、というのが米国の言い分だ。
市場の排他性をなくすため軽自動車を優遇する税制や日本独自の安全基準を米国車に押しつけない例外扱いなどを協議する、というのである。
「言いがかり」のような要求だが日本は交渉に応じた。(以下略)
ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/articles/-/35191