英国の有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)は14日、世界の軍事情勢をまとめた年次報告書
「ミリタリー・バランス2013」を発表した。
世界の防衛費総額は、財政難の欧米諸国の歳出削減で2年連続の減少。
中国を中心に増額が続くアジアの防衛費が12年に初めて欧州を追い抜いた。
軍事バランスの側面でもアジアの伸長が鮮明になってきた。
IISSの集計によると、12年の世界の防衛費総額は前年比2.05%減り、11年の1.5%減に続く縮小だった。
米国や欧州諸国が財政再建のため歳出を減らした影響が出た。北大西洋条約機構(NATO)に加盟する
欧州諸国の防衛費は実質比較で06年より11%少ない水準になった。
一方、経済成長が続く新興国では防衛費も伸びが目立つ。域内で領土をめぐる緊張が高まったアジアの
防衛費の伸び率は、12年に4.94%と11年(2.44%)から倍増した。12年のアジアの防衛費は
2874億ドル(約27兆円)に上り、NATO加盟の西欧諸国だけでなく欧州全体の防衛費を上回ったという。
IISSは昨秋の報告書「戦略概観」で、アジアの国内総生産(GDP)が50年までに世界の50%を占めると試算。
「アジアの世紀」到来を予感させると指摘した。
今回の「ミリタリー・バランス」では、軍事費でもアジアが台頭してきた姿が浮き彫りになった。
国別には、中国の防衛費が20年代〜40年代のいずれかの時点で米国を逆転する可能性が高いと試算。
足元の中国経済の減速について「防衛支出を今までのように伸ばしていくのに苦労するかもしれない」とも予測した。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制は「彼の上品な妻を公共の場に登場させるような形式の変化が、
政治の中身の変化に及ぶかどうかなお不透明だ」とした。
「北朝鮮のミサイル発射と中国の海上活動の拡大で日本政府が安全保障への関心を高めている」と、
日本を取り巻く状況が緊迫してきたと分析。沖縄県・尖閣諸島を巡る日本と中国の対立については、
海事担当のクリスチャン・レミエー氏が「武力紛争に発展する可能性は低い」と語った。
報告書は混乱が続く中東・北アフリカは「11年の民主化要求運動『アラブの春』を契機に軍と政府の関係の
再調整が始まった」と指摘。アラブの春で独裁政権が崩壊したリビアから流出した武器の量は「測定不能だ」とした。
アルジェリアでは邦人を巻き込む人質事件が起きた。こうした事件が周辺地域に拡散する危険性を強調した。
IISSのチップマン所長は14日の記者会見で「世界の注目は引き続き『アラブの春』の成り行き、とくに
シリア内戦に集まっている」と語った。報告書は「反体制派にも政権打破の後の戦略が見受けられない」とし、
アサド政権と反体制派の武力衝突の泥沼化を懸念した。(ロンドン=上杉素直)
日本経済新聞 2013/3/14 23:40
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM14084_U3A310C1FF2000/