カエルツボカビ症はザリガニが拡散?
世界各地の両生類の間で感染症が流行し、一部の種では絶滅も懸念されている。このほど、この感染症を
拡散している真犯人が明らかになった。ザリガニだ。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/bigphotos/images/chytrid-frog-killing-fungus-not-limited-to-amphibians_62460_big.jpg カエルツボカビ症で死んだカエルたち(資料写真)。Photograph by Joel Sartore, National Geographic
この数十年、カエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)によって引き起こされる感染症がカエルなどの
両生類の間で蔓延している。300以上の種が絶滅の危機に瀕しており、すでに絶滅してしまった種も多いと考え
られる。しかし、体が小さく個体数の少ない種の場合、地上からその姿が消えてしまったことを確認するのは難しい。
「この感染症はひどい事件だ。地球上の生命の歴史において、私たちの知る限りのあらゆる感染症の中で、最も
ひどい事件だと言っていい」と、サンフランシスコ州立大学の保全生態学者バンス・ブリーデンバーグ(Vance
Vredenburg)氏は言う。同氏はカエルを専門としており、今回の研究には関与していない。
カエルツボカビは1990年代の終わりに初めて確認された病原菌だ。以来、その拡散やカエルツボカビ症の発症の
しくみについて研究が重ねられてきた。
中でも大きな謎とされてきたのは、カエルツボカビがカエルのいない池でも生息を続けられるしくみについてだ。研究
者はそのような事例を何度も目にし、当惑するしかなかった。ある池で両生類が一掃されたとする。しばらくして、
カエルなりイモリなりが何匹か帰ってきてその池に住み着いたとしても、その個体もやはり死んでしまう。このカビの
宿主となる両生類は、その池にはしばらく存在しなかったにも関わらずだ。
考えられる理由の1つは、カエルツボカビがほかの生物にも寄生しうることだ。タンパにある南フロリダ大学で生態
学を学ぶ大学院生ティーガン・マクマホン(Taegan McMahon)氏は、カエルツボカビの宿主となっている可能性の
高い生物種をいくつか観察した結果、ザリガニに的を絞った。この淡水の甲殻類が“容疑者”であるとされたのは、
広く分布していることと、カエルツボカビの増殖に利用されるタンパク質のケラチンが、ザリガニの体に多く含まれる
ことが理由だ。
マクマホン氏が実験室環境でザリガニをカエルツボカビに接触させたところ、ザリガニは感染した。約3分の1の個体は
7週間以内に死に、生き残った個体の大部分は保菌者となった。マクマホン氏が感染したザリガニをオタマジャクシと
同じ水槽に入れると(ただし網で分離して、ザリガニがオタマジャクシを食べてしまうことはないようにした)、オタマジャ
クシはカエルツボカビに感染した。また、マクマホン氏らのチームがルイジアナ州とコロラド州の湿地帯で現地調査を
行ったところ、カエルツボカビに感染したザリガニが確認された。
これらのことから、ザリガニはたしかにカエルツボカビの“貯蔵庫”の役目を果たしていることが分かった。カエルツボ
カビは一時的にザリガニに寄生して生きながらえて、また両生類の体に戻る機会を窺っているらしい。カエルツボ
カビの正確な起源がどこなのか、なぜ近年急速に問題化しているのか、などといった疑問にはいまだ明確な答えが
出ていない。しかし今回の研究によって、その拡散ルートの1つの可能性が示された。ザリガニは魚釣りの餌として
使われるので、池から池へと移動させられることがあるし、食用に、あるいは愛玩用に世界中で販売されている。
>>2辺りに続く
Helen Fields/National Geographic News December 19, 2012
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20121219002&expand#title 今回の研究は、カエルツボカビ症に関する未解決の疑問すべてに回答するものではない。たとえば、ザリガニは
一般的な生物ではあるが、どこにでもいるわけではなく、カエルツボカビ症によってカエルが壊滅的な被害を受けた
地域の中には、ザリガニがまったく生息していないところもあるとブリーデンバーグ氏は指摘する。それでも今回の
研究は「ほかの宿主の可能性について、もう少し広く調べてみる必要がある」ことを示すものだとブリーデンバーグ
氏は言う。
今回の研究は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に12月17日付で
掲載された。
Chytrid fungus Batrachochytrium dendrobatidis has nonamphibian hosts and releases chemicals that cause pathology in the absence of infection
Taegan A. McMahon, Laura A. Brannelly, Matthew W. H. Chatfield, Pieter T. J. Johnson, Maxwell B. Joseph,
Valerie J. McKenzie, Corinne L. Richards-Zawacki, Matthew D. Venesky, and Jason R. Rohr
PNAS 2012 ; published ahead of print December 17, 2012, doi:10.1073/pnas.1200592110
http://www.pnas.org/content/early/2012/12/19/1200592110.abstract 関連ニュース
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