【国際】混迷する朝鮮半島 竹島問題の国際司法裁への提訴は日本の平和姿勢を示す 米国は日韓の対立を望まない−孫崎享

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(4)米国に地名委員会がある。同委員会は1890年の大統領令及び1947年の法律により設置されたもので、外国を含め、
地名に関する政策を扱う。2008年、ブッシュ大統領は訪韓する直前に、韓国大使と会談した。ブッシュ大統領はこの後、
ライス国務長官に竹島について検討するよう指示し、同島を「韓国領」に改めた。米国地名委員会は今日でも竹島を、
韓国側の名称である「独島」と記載している。

 この動きに対して同年7月31日付朝日新聞は「町村官房長官は7月31日の記者会見で、“米政府の一機関のやる
ことに、あれこれ過度に反応することはない”と述べ、直ちに米政府の記述の変更を求めたりせず、事態を静観する考えを
示した」と報じている。

 町村信孝官房長官は重大な過ちを犯した。第1に、これは「米国一機関のやっていること」と片付けられるような小さな
動きではない。第2に、米国がどのように判断するかは竹島の帰属に深刻な影響を与える。

 以上を見ると、日本と韓国が各々自国領と主張する時にはそれなりの根拠を有している。

■領土問題に対する8つの方策

 日本は隣国と「北方領土問題」「尖閣諸島問題」「竹島問題」を抱えている。我が国は領土問題にどのように臨んだら
よいのであろうか。

(い)第1に相手の主張を知り、各々言い分がどれだけ客観的であるかを理解し、不要な摩擦は避ける。

(ろ)第2に、領土紛争を避けるための具体的な取り決めを行う。中国とASEAN諸国が2002年11月署名した「南シナ海の
行動宣言」には「領有権紛争は武力行使に訴えることなく、平和的手段で解決する」「現在(当事国に)占有されていない
島や岩礁上への居住などの行為を控え、領有権争いを紛糾、拡大させる行動を自制する」の項目がある。これが参考になる。

(は)国際司法裁判所に提訴するなど、解決に第三者をできるだけ介入させる。

(に)緊密な多角的相互依存関係を構築する。

(ほ)国連の原則を前面に出していく。国連憲章第2条第4項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力に
よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立
しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」としている。

(へ)2国間で軍事力を使わないことを共通の原則とし、それについて、しばしば言及する。これによって、遵守の機運を
お互いに醸成する。

(と)領土問題は、それだけで紛争に拡大することはない。しばしば、地下資源や漁業資源がからむ。従って、地下
資源や漁業資源について合意し、それを遵守する。日中間には「日中漁業協定」がある。資源に関する共同開発
などの話もある。これらを進め、これから対立が生じないようにする。

(ち)現在の世代で解決できないものは、実質的に棚上げし、対立を避ける。あわせて、棚上げ期間中は双方がこの
問題の解決のために武力を利用しないことを約束する。

■国際司法裁判所への提訴は、日本の平和姿勢を世界に伝える

 これらの幾つかの手段の中で、竹島に関しては、国際司法裁判所への提訴問題が浮上した。8月11日付毎日新聞は
「日本政府は11日、竹島の領有権問題で約半世紀ぶりに国際司法裁判所に提訴する検討に入った」と報じた。

 国際司法裁判所は紛争当事者双方の合意がなければ手続きが始まらない仕組みである。8月11日付毎日新聞は
「韓国外交通商省当局者は11日、島根県の竹島の国際司法裁判所への提訴について“一考の価値もない”と述べ、
裁判開始に必要となる提訴への同意を拒否する考えを鮮明にした。韓国は応じない可能性が高い」と報じた。

 確かに国際司法裁判所への提訴は、相手国が応じなければ手続きが始まらない。しかし、日本側が提訴することは、
次の2点を国際的に示す長期的な意義がある。(1)日本は領土問題を平和的に解決したい、と考えている。(2)日本側は
「日本側主張が客観的に正しい」と信じている。領土問題を平和的に解決する方向を示すわけで、肯定的評価が与え
られるべきと考える。

 日本政府が竹島について国際司法裁判所の判断をあおぐ方針を出したことは、将来、尖閣諸島の処理についても同様の
方針をとることを示唆する。日本は竹島を実質的に管轄している韓国に自制を促している。これは、日本が尖閣諸島に
対する自己主張を抑制すべきだとの論につながる。  >>3あたりに続く