野田佳彦首相は日本経済復活の課題として「中間層の厚み拡大」を取り上げた。その方向に異論はない。
確実に実現するには低賃金に象徴される非正規雇用を減らし、新成長戦略を推進することだ。
中間層とは一般的に貧困層と富裕層の間に位置する所得階層をいう。この層は仕事や余暇を楽しみ
財物の購買力も強いから、経済をけん引するだけでなく社会を安定させる役割も持つ。
その層が縮小している。国税庁の調査では年収三百万円以下の低所得層はバブル崩壊後の一九九三年に
全体の34・2%だったが二〇〇九年には42・0%まで上昇。一方、中間層の柱である五百万〜一千万円
以下の層は28・1%から22・4%へ低下した。これでは経済は元気が出ない。
戦後の経済社会は復興から高度成長を経て七〇年代には豊かな中間所得層が誕生。日本を経済大国に
押し上げた。現在は長期低迷にあえいでおり、打開するには抜本的改革が必要だ。
政府はこの際、雇用政策を勤労者重視に転換すべきである。
パートや派遣・契約社員など非正規雇用労働者は今や全体の四割近くを占める。彼らの給与水準は
正社員の六割程度。同一価値労働同一賃金の原則を踏まえれば賃金と処遇の改善が急務だ。
最低賃金の引き上げはその第一歩となる。昨年の雇用戦略対話で政労使が合意した「早期に全国平均で
時給八百円以上、二〇年までに千円以上」の達成を目指す。中小は悲鳴を上げるが、企業の社会的責任を
果たすべきだ。
継続審議となっている労働者派遣法改正案を早く成立させる。製造業派遣を禁止するなど三年前の
リーマン・ショックで社会問題化した“派遣切り”を防ぐ内容である。与野党協議を急げ。
足元の雇用対策も重要だ。東日本大震災以降、雇用情勢は不安定で七月の完全失業率は4・7%と
二カ月連続で悪化した。岩手、宮城、福島三県の失業者は十五万三千人以上。被災者の雇用創出に
全力を挙げてほしい。
大規模な本年度第三次補正予算案の編成が緊急課題だ。公共事業や産業振興策、円高対策では
工場などの国内立地を進める企業への補助を拡大すべきだ。
そして新成長戦略を着実に進める。鉄道や道路、水道など社会資本整備の輸出、環境・エネルギーや
医療・介護分野で次世代産業や新技術を開発する。“どじょう内閣”の実行力が問われている。
ソース:東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2011090902000037.html