◆春季高校野球岩手県大会沿岸南地区予選第1日
▽1回戦 高田5―6釜石=延長10回=(12日、住田町野球場)
東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県大会沿岸南地区予選が開幕。
津波で自宅や親族を失った球児が悲しみを乗り越えて全力プレーした。
レギュラー9人中6人が自宅を流失した釜石(釜石市)は、同じく部員の3分の1が家を流された高田(陸前高田市)を6―5で下した。
また、釜石商工のエース・佐々木大樹主将(3年)は亡き祖母に白星を贈った。
釜石市VS陸前高田市。
「とどけ白球、三陸へ!」
と書かれたのぼりがはためくなかでの被災地同士の熱戦は、わずかな差で釜石が競り勝った。
2―4の8回、4番の前川昭平(2年)がライトへ逆転3ラン。
直後に同点に追いつかれたが、10回2死三塁から5番・上野寛弥(2年)の左前適時打で勝ち越した。
釜石ナインは震災後、避難所になった学校の体育館でボランティア。夜、暗い中でトイレに立つお年寄りに付き添い、介助もした。
菅原基監督(44)は「レギュラー9人中、家が残っているのは3人。
学校は残っていて恵まれていますけど、子どもたちの生活状況は良くない。今日は勝たせたかった」と涙を浮かべた。
前川は大槌町の自宅と父・剛さん(39)が経営していた飲食店が津波にのまれた。
現在は同町内の母・育子さんの実家で生活。写真など思い出の品はすべて津波で失った前川は試合後、新たな記念になるホームランボールを母に手渡した。
一方、高田は震災で校舎が全壊。生徒の死者・行方不明者数は20人を超える。
野球部でも部員の3分の1が家を流され、親族を失うなどした。両親を亡くした部員は転校。
4月下旬に練習再開したが、グラウンドは仮設住宅を建設中で使えず、屋外で練習できたのは10日ほどだった。
「粘り強く戦ってくれた。勝たせてやりたかった」惜敗に涙をこられきれずうずくまる選手を前に、
佐々木明志監督(47)は無念そうに語った。
接戦をものにした釜石は08年春以降、県大会から遠ざかっている。
前川は「粘り強くがんばっていきたい」。ともに被災し、ともに全力でプレーした高田ナインの思いも胸に、地区大会突破を誓った。
◆祖母に贈る1勝 ○…住田を5―4で下した釜石商工の先発・佐々木大はこの日、
10日に亡くなった母方の祖母・斎藤日出子さん(享年69歳)の葬儀と試合が重なった。
日出子さんは抗がん剤治療を受けていたが、震災後、薬が届かず
「寿命が縮まったかな」とぽつり。13日の大船渡戦も勝利し、墓前に県大会出場の吉報を届けるつもりだ。
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20110512-OHT1T00316.htm