養鶏業界「ワクチン接種を」 国は慎重「変異のおそれ」 アサヒ・コム 2月13日14時3分配信
感染力の強い高病原性鳥インフルエンザの発生が続く。昨年11月以降、ウイルスに襲われた
養鶏場は全国で15カ所。流行を止めるため、養鶏業界からは鶏へのワクチン接種を求める声が
強まっている。だが、ワクチンでは発症を抑えられても感染自体は防げず、農林水産省は否定的だ。
「養鶏場の上をウイルスまみれの野鳥が飛んでいる。生きた心地がしない」「すでにパンデミック
(大流行)の状況。明日は我が身か」
東京都内で9日開かれた採卵鶏の業者らによる「緊急全国集会」。集まった約130人からは
ワクチン接種を求める意見が相次いだ。ワクチンを打てば、仮にその後に感染したとしても、
鶏からのウイルスの排出量が減り、流行を抑えられると期待する。
家畜伝染病予防法は、鳥インフルが確認された養鶏場のすべての鶏の殺処分を定めている。
業者たちは「補償はあっても、一度処分されると販売先に見放され、倒産してしまう」と訴える。
しかし、ワクチンを備蓄している農水省は接種を認めていない。
発症が抑制される結果、接種後に野鳥などから感染した鶏の発見と処分が遅れ、その間に
ウイルスが養鶏場全体に広がるおそれがあるためだ。こうした「見えない感染」の過程で、
ウイルスの変異が起こって人にもうつる新型インフルエンザが発生する危険性が高まる、とする。
養鶏業界も一枚岩ではない。採卵鶏の業者は、接種した鶏の卵も流通できるため接種を求めて
いる。一方、肉用鶏(ブロイラー)の業者は、接種すると一定期間出荷できなくなるため反対だ。
また欧州では、接種した鶏から産まれた卵に対する風評被害の懸念が出たという。
専門家の見方にも温度差がある。国立感染症研究所の田代真人・インフルエンザウイルス
研究センター長は「接種で発症は防げても感染は防げない。感染しているが未発症の鳥を
見逃す危険性がある」。北海道大学の喜田宏教授(獣医微生物学)は「ウイルスの持ち主
(鶏)を1羽残らず処分することが唯一最善の対策。鳥インフルの流行が止まらない国は、
現在もワクチンを使い続けている国ばかりだ」と語る。
一方で、吉川泰弘・北里大教授(人獣共通感染症学)は「これから毎年、シベリアからの渡り
鳥がウイルスを運んでくるとなれば、これまでのように1カ所ずつの発生でなく、全国各地で同時に
多数発生することもありうる。それを踏まえ、防疫体制を見直さなくてはいけない。同時多発的
な発生が抑えられないレベルまで来たとき、どういう場合に備蓄ワクチンを使うのか。公的な場で
議論しておくべきだろう」と指摘する。
▽アサヒ・コム
http://www.asahi.com/national/update/0209/TKY201102090449.html http://www.asahi.com/national/update/0209/TKY201102090449_01.html