(
>>1のつづき)
県立図書館の本の配送は05年に始まった。
市町村支援担当の職員3人が毎週木曜日の午後、市町村の図書館・図書室から貸し出し依頼があった本を
仕分けし、宅配便で送る。
担当者は「市町村の資料費が少なく、ベストセラーや基本的な資料もどんどん貸し出さなければならない状態」
と説明する。
県立図書館の使命の柱は、専門書の充実と、貸し出しも含めた市町村支援だ。
市町村の司書や支援員向けに、読み聞かせの方法や本の紹介の仕方などを教える地域ごとの研修を
県内3カ所で年2回開いている。
だが、市町村立図書館には非常勤の司書や他の業務と掛け持ちの担当者も多い。
大月町立図書館では、公民館と兼務する職員3人がお年寄りのサークル活動支援なども受け持つ。
県立図書館の研修には参加しているが、職員は「貸し出し業務以外に手が回らない」と漏らす。
17市町村の図書室に配置された支援員も、国の緊急雇用対策を活用しているため原則1年間だ。
本山町の田岡さんも3月末で任期が切れる。
約2万冊の蔵書がある日高村立図書館は、毎月60〜70冊を購入するが、要望が強い新刊の小説や
児童書が大半だ。
昨年11月、尖閣諸島問題が注目されて企画展をしようとしたが、歴史や領土問題の専門書がなかった。
県立図書館から約20冊を取り寄せ、今月上旬から「日本の国境」という展示を始めた。
県立図書館と高知市民図書館の合築方針の再考を求める声も出ている。
四万十町議会は昨年12月、「県立図書館の基本的機能が果たせなくなる懸念がある一体図書館構想は中断し、
県立図書館のあり方を県民で議論するよう求める」意見書を可決した。
日高村立図書館の山中和子(やす・こ)司書(37)も、「狭い建物に県立図書館と市民図書館が一緒になって、
本がスムーズに配送できるのか心配。市町村への支援が弱くならなければいいが」と懸念する。
(
>>3以降へつづく)
(
>>2のつづき)
NPO法人が運営し、子どもの本約3万5千冊を所蔵する「高知こどもの図書館」(高知市永国寺町)の
大原寿美館長は、検討委員会を傍聴している。
「サービス面や今後の電子書籍のゆくえなど本質的な議論をして、図書館の将来像を考えてほしい」と
注文を付ける。
その上で「県立は県内各地から来やすいように広い駐車場があり、ゆったり本を選んで研究もできる場であってほしい」
と話した。
高知市民図書館は、本館と21の分館・分室で独自の配本システムを築き、分館・分室は地区ごとの委員会に運営を
任せるなど、“自主自立”で市民の読書環境を整えてきた。
本館が県立図書館と合築されると、ベストセラー本の予約待ちが現在の半年・100人からさらに長びく可能性が
あるなど、サービス低下を懸念する声が上がっている。
県立図書館が市町村立図書館・図書室に本を配送しているのと同様に、高知市民図書館も本館と市内21カ所に
ある分館・分室との独自の“物流システム”を確立している。
予約すれば本館や分館・分室にある本を、希望する分館・分室で受け取ることができる。
分館・分室間で本をやりとりする場合も一度本館を経由して管理を効率化。
昨年3月からはインターネットでの予約も始めた。
昨年12月のある日、高知市民図書館本館1階の配送室では、職員3人が本の仕分けに追われていた。
本館所有で分館・分室から戻ってきた本は、ラックに積んで開架場所に戻しにいく。
分館・分室からほかの分館・分室に貸し出される本は、本に挟まれた伝票を見ながら回送先ごとに箱詰めしていく。
70箱になる日もある。
(
>>4以降へつづく)
(
>>3のつづき)
もう一つの特徴は、分館・分室の運営が地域ごとに設置された住民参加の運営委員会に任されていることだ。
分館で最も多い年間約20万冊を貸し出す潮江市民図書館には、司書が4人いる。
入り口に高知の食に関する本の特集コーナー、館内には司書のおすすめの本の紹介コーナーがあり、
民間の大型書店のように工夫が凝らされている。
エレベーター内には、上階の会議室の利用者を取り込もうと、お年寄りや主婦向けの本の紹介がはり巡らされ、
貸し出し用伝票もついている。
潮江市民図書館に週に何度も通う高知市百石町4丁目の女性(39)は「毎日来ても飽きない。本館・分館の
本を予約で取り寄せられるのも便利」とお気に入りだ。
高知市民図書館の図書購入費は、市の財政再建のため2004年度の8577万円をピークに減り続けているが、
09年度予算では約5500万円で県立図書館のほぼ倍だ。
蔵書は本館に約42万冊、分館・分室を含めて計約98万冊で、08年度の貸出冊数は約188万冊にのぼる。
高知市民図書館の理念は「市民生活に役立つ本の提供」で、専門書や歴史書に比重を置く県立図書館よりも
身近な本が多く並ぶ。
特に村上春樹や東野圭吾ら人気作家の小説は、予約が100人、半年待ちになることも多い。
村上春樹の「1Q84」は一昨年5月の発売後、計22冊を購入したが、現在も約60人待ちだ。
潮江市民図書館に予約した女性誌を借りにきた近くの女性(49)は、東野圭吾の小説を半年待ちで借りたことがある。
「冊数に限りがあるから仕方がないけれど、もう少し早くならないか……」と、ちょっと不満だ。
一方、高知市民図書館では長い予約待ちの本が、市町村の図書館や図書室には県立図書館から取り寄せたまま、
誰にも借りられずに置かれていることもある。
09年度に高知市民図書館が県立図書館や市町村立図書館から借り受けた本は2冊だけで、独自のシステムの裏で
ちぐはぐな現象も起きている。
高知市民図書館本館では、発売後1年以内の新刊本は市町村立図書館に貸さない規定があり、09年度に市町村立図書館に
貸し出した本は841冊と少ない。
しかし、新図書館の検討委員会では、本館の新刊本を原則的に無制限で市町村立図書館が借りられるようにする方向で
議論が進む。
さらに、分館・分室では直接来館した人への貸し出しを優先する予定で、予約での取り寄せが不便になる可能性がある。
同館の司書は「市民への貸し出しが減るのではないか」と危惧する。
昨年12月に合築反対を掲げ、大学教員や元図書館関係者らが結成した「新時代の図書館をつくる高知の会」も、
市民サービスが低下すると懸念を表明し、県や高知市に図書館の単独整備と県民、市民の意見を聞く機会を持つよう
要望している。
同会呼びかけ人の山根久之助さん(67)は「単独で整備し、それぞれの役割を十分に果たすことを考えるべきだ」と訴える。
筒井秀一・高知市民図書館長は「県立図書館と同じ窓口になる予定で、高知市だけに貸し出しを制限することは難しい。
本の購入を増やすことでサービスの向上を図り、県内の読書環境の充実に貢献していきたい」と話している。
(おわり)