乳幼児期の集団予防接種の注射器の使い回しでB型肝炎ウイルスに感染したとして国を相手取り損害賠償
を求める集団訴訟を起こした全国原告団は22日、東京都内で総会を開き札幌地裁が示した和解案を受け
入れることを決めた。国も受け入れる方針を決めており、10地裁で原告630人に広がった訴訟は和解
が成立する見通しになった。
原告側は2月15日の和解協議までに札幌地裁に伝える。今年度内の基本合意を目指すが、国による謝罪
や全員救済実現、差別や偏見の解消などの課題を解決する道筋が付くことを「前提条件」としており国側
と細部を詰める作業が残されている。話し合いが順調に進めば、和解協議入りしている札幌、福岡両地裁
に続き、他の8地裁でも和解に向けた手続きに移る見通し。
政府は和解案に沿って救済策を講じた場合の費用を、原告以外の人たちを含め最大3.2兆円と試算。
今後政府や与野党間で財源や立法措置の検討が加速するとみられる。
総会後の記者会見で全国原告団の谷口三枝子代表(61)は「すべてに満足できるわけではないが(各地からの)
代議員の議決で札幌地裁の所見を受け入れることに決めた」と述べた。
症状がまだ出ていない持続感染者への和解金が50万円と少ないことなどから「積み残された課題は多い」
と話し、検査体制充実や差別、偏見をなくす取り組みに向けて国と協議を続ける意向を示した。
長年にわたり感染被害が広がったことについては加害責任に基づき国が真摯(しんし)に謝罪するよう求めた。
発症から20年たった肝炎患者や、予防接種で感染した母親からうつった「二次感染者」への対応は和解案に
盛り込まれなかったが、これらも課題に挙げた。
総会には札幌、東京、新潟、静岡、金沢、大阪、鳥取、松江、広島、福岡の各地裁の原告団から代議員29人
が参加した。「持続感染者の和解金が低すぎる」との意見が出たが、「重症化している患者も多く訴訟を長引
かせるわけにはいかない」との結論に至ったという。
札幌地裁は「厚生行政上の過誤による被害の救済策」として、肝がんや肝硬変、慢性肝炎を発症している患者
や亡くなった人に症状に応じ3600万〜1250万円、症状が出ていない持続感染者に50万円と検査費用
などを支払う和解案を示していた。
菅政権は「司法の判断を重く受け止め、基本的には前向きに検討する」との基本姿勢を確認、1月中にも受け
入れを正式に表明する方針。(北林晃治)
■全国B型肝炎訴訟原告団の声明(骨子)
・和解案(所見)は、苦渋の選択だが基本的に受け入れる。
・被害者の全員救済を実現するため、予防接種を受けた事実について不可能な証拠提出を必要としないよう国に求める。
・国は国民に集団予防接種による加害などの事実を説明し、被害者に謝罪すべきだ。
・財源論を強調し、増税論までちらつかせる国の姿勢は許せない。
・全面解決に向けて、国に正確な医学知識の普及による差別・偏見をなくす施策を求める。
〈B型肝炎集団訴訟〉1948〜88年に国が地方自治体に実施させた集団予防接種などでB型肝炎ウイルスに感染した
として、08年3月、患者ら5人が札幌地裁に提訴した。これを皮切りに、全国10地裁で原告計630人(22日現在)
が国に損害賠償を求めている。今月11日、札幌地裁が、症状がまだ出ていない持続感染者も救済対象に含める和解案を
示し、国は受け入れる姿勢を見せていた。
B型肝炎ウイルスは、出産時の母子感染のほか、注射器の使い回しなどの医療行為で主に血液を介して感染。発症すると
肝機能が低下、肝硬変や肝がんになる場合がある。
▽asahi.com(2011年1月22日20時20分)
http://www.asahi.com/national/update/0122/TKY201101220209.html