◆社説:公務員の出向 これでは失業対策だ
やはり事実上の天下りではないか。各府省の幹部職員を独立行政法人の役員や民間企業に出向させる人事が本格化しそうだ。
再就職のあっせんを政府が禁じたためベテラン職員が滞留しており、出向という形で受け皿を作る狙いがある。
行き場を失った幹部を救済する、あたかも失業対策のような交流人事が行われるとすれば、本来目的の逸脱である。特に独法へ
の出向が無原則に広がれば、天下り規制は形骸(けいがい)化する。十分な監視が必要だ。
強い行政の権限を持つ幹部公務員が政府系機関や民間企業に出向することは府省による統制を強めかねないとして、厳しく制限
されてきた。その方針を変更したのが政府が6月に決めた「退職管理基本方針」だ。もともと政府は鳩山内閣の下で、公務員OBが
役員を務める独法について、後任の役員は公募で選考することを決めていた。ところが、基本方針では現役幹部を出向させる場
合、公募の対象外とした。
さらに基本方針が官民人事交流の一層の推進を打ち出したことを受け、人事院は規則を改正。これまで認めていなかった各府省
の所管関係にある民間企業への部長・審議官級幹部の出向を解禁した。
政府が出向の大幅緩和に動いた背景には、天下りあっせんの禁止に伴い各府省の幹部人事が停滞し、40〜50代の職員がだぶ
ついている事情がある。政府は「出向の場合は、元の府省に戻る。このため退職金を2度もらう弊害はなくなる」として天下りと異な
ると強調している。
果たしてそうか。独法の多くは国から支出を受け、しかも給与水準の高さが指摘されている。仮に同じ省の出身者が代々同じポス
トに「出向」を繰り返した場合、実態は天下りの指定席と変わらないのではないか。また、独法にいったん出向した職員が元の府省
に戻り、今度は形だけの公募を経て再就職するようなことがあれば、天下り規制はほとんど骨抜きにされよう。
民間企業への幹部出向も、やり方次第では官民癒着の温床と化すおそれがある。人事院は幹部が退職後にかつての出向先に再
就職することも条件つきで容認しているが、厳格運用に徹すべきことは当然だ。現在、政府が検討している公益法人、NPO法人へ
の出向の解禁についても慎重な対応が必要である。
幹部出向の緩和は財務省が内閣官房に要望した線に沿い、実現した。確かに人事の滞留は問題だが、人件費の総額を増やさず
定年まで職員が勤務できるような人事体系全体を構築し、解決すべき問題だ。なりふり構わぬ抜け道作りに走っているようでは、政
権の見識が問われる。
ソース:毎日jp(毎日新聞) 2010/08/30 02:33
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100830k0000m070099000c.html