【プロ野球】ソフトバンクは年間約30億円の赤字で、観客動員数も頭打ちなので、本社はドラ1に潜在能力の大石よりも話題性の斎藤佑樹推し
斎藤佑か大石か ドラフト1位で股裂きにあう ソフトバンク王会長
早実の後輩で人気、話題性を考慮すれば斎藤、投手としての潜在能力、地元出身を優先すれば大石
ソフトバンク・王会長の動きが活発だ。去る7日は世界大学野球選手権の決勝戦の
始球式で打席に立ったかと思えば、10日は甲子園での高校野球選手権を視察。
「もう高校野球で甲子園には来られないんじゃないかと思っていた。念願がかなった」
と早実卒業から53年ぶりに高校野球が行われている甲子園を訪れ、感慨深げだった。
第1試合から第4試合の途中まで観戦、母校と中京大中京が対戦する14日も視察の
予定という。春には東京六大学リーグの早大の試合にも顔を見せた。今年のドラフトの
目玉である斎藤佑や大石の投球をチェックするためだ(斎藤は登板せず)。会長として、
編成の責任者として、ドラフト候補生をチェックしチームづくりに腐心しているのである。
その王会長が今、もっとも頭を痛めているのが今年のドラフト1位だ。斎藤か大石の2人に
絞られているが、そのどちらにも1位指名の必然性があり、自らが最終決断をしなければ
ならない立場だからだ。当初、フロント、現場は大石1位指名の方針だった。155キロの
剛速球で早大では抑えを務めているが、先発でも力は発揮できる。世界大学野球選手権で
準優勝したアメリカのキンナバーグ監督が日本戦のあと(大石は九回の1イニングを投げ
3者連続三振)、「彼の将来の成功は約束されている」と太鼓判を押したほどだ。
●ひとつ間違えば1985年の桑田、清原の「悪夢」の二の舞いも
ソフトバンクは投手陣の強化が大きな課題だ。先発で頼りになるのは和田、杉内の2人だけ。
大隣(今季2勝8敗、4年目)、大場(勝ち負けなし、3年目)、巽(0勝2敗、2年目)などドラフト上位の
即戦力投手が期待を裏切っている。しかも大石は福岡県出身。もともとホークスは九州出身の
有望選手を集めている。昨年のドラフトも1位今宮(大分)、2位川原(福岡)は九州出身だった。
大石は同じ福岡でも市内の福岡大大濠高出身。お膝元のヒーローでもあり、まさにうってつけの
ドラフト1位だ。それがここにきて斎藤も、となったのは本社サイドの意向が働いているという。
ソフトバンク関係者がこう言う。
「本社が斎藤を推すのは営業面を考えてのことです。大石は地元の有望選手だが、全国区人気、
話題性では斎藤にかなわない。観客動員数も昨年、一昨年とも前年を下回り、頭打ちです。
起爆剤となる選手が欲しい。あるいは斎藤をCMに起用することまで考えているかもしれません」
球団は関連会社を含めて年間約30億円の赤字を出しているという。その大きな理由は
年間48億円の球場使用料だ。30年間の長期契約をしているためいかんともしがたいが、
球団、親会社にとって大きな重荷になっているのは間違いない。そのため、以前、
親会社幹部が関係当局に税制面での優遇を依頼に行ったこともあるほどだ。
加えて王会長にとっては孫オーナーは特別な存在だ。監督勇退後、球団幹部として残ったが、
その待遇はユニホームを着ているとき(年俸2億2250万円、乗用車1台、マンションなど)と
ほとんど変わらないという。それだけ孫オーナーの信頼が厚いからだが、逆に言えば、
だからこそ親会社の意向を軽視できないのである。さらに言えば斎藤は王会長の
早実の後輩で、ともに甲子園の優勝投手だ。投手としての潜在能力では大石に劣るが、
斎藤に対する強い思い入れがあったとしても当然だろう。
●土壇場で変わったPL学園同級生の評価
斎藤か大石かで頭を悩ませる王会長といえば、1985年のドラフトが思い出される。
当時、王会長は巨人監督。その年のドラフトはPL学園の桑田、清原が最大の目玉。
巨人内でも意見が分かれていた。結局、攻撃野球を身上とする王監督が清原1位を決めたが、
ドラフト会議の直前になって桑田に方向転換した。
「投手陣強化のため、仕方なく直前で変えた」「桑田早大進学、プロ拒否を匂わせ
巨人が一本釣りした」「2年連続優勝を逃し、王監督は自分の意見を押し通せなかった」
などと、この逆転劇についてはいろいろ言われているが、王監督が究極の選択を迫られ
苦しんだ末の決断だった。ドラフト1位候補はくしくも前回はPL学園の、今回は早大の同級生だ。
前回は「裏切られた」と清原が涙を流すなど、その後も物議を醸した。斎藤か大石か、
ひとつ間違えると85年の「悪夢再び」になるかもしれないのである。
2010年8月13日発行の日刊ゲンダイより