発がん性疑い製造凍結 信大教授の製法採用のCNT製品
総合化学大手の昭和電工(東京)が、遠藤守信・信大工学部教授が開発した製法を採用したカーボン
ナノチューブ(CNT)の一部製品「VGCF−S」について、社内の動物試験で発がん性の疑いがあること
を確認したとして、製造、販売を凍結したことが15日、信濃毎日新聞の取材で分かった。
同社によると、ゴムや樹脂に交ぜるVGCF−Sは2006年ごろに生産を始めた。具体的な産業用途を
模索中で、川崎市内の工場で、必要な分を不定期に生産。生産量は計数十キロ〜数百キロ程度で、
研究所や企業などに販売したが、市販品への活用例はないという。
昭和電工の安全性試験センターが06年11月、VGCF−Sの発がん性をハムスターで調べる試験を開始。
気管内に低濃度投与したところ、中皮腫の疑いを1件確認。中濃度投与では、腺がんと悪性リンパ腫の疑
いが一部で見つかった。ほかの製品と比べ、形状がアスベスト(石綿)に似ているという。
同社は今年5月中旬、凍結方針を従業員や同社労組に説明。その際の資料で「統計的に必ずしも(発が
んの)有意性があるとは言えず、結果がヒトへの有害性を示すものではない」としつつ、安全面の配慮を強
調した。同社IR・広報室は「工場は暴露対策を十分取っており、従業員への危険はほとんどない。
大量生産している製品は、同様の試験で発がん性は確認されず安全性は確保されている」としている。
CNTの発がん性については、文部科学省の補助を受け、信大(代表・遠藤教授)も研究。共同研究者の
小山省三・信大教授(生理学)がマウスの腹腔(ふくくう)内に投与した結果、08年6月に悪性中皮腫発生を
確認したのに、その結果を遠藤教授や信大が無視したなどとして2日、地裁松本支部に提訴した。
小山教授によると、中皮腫の発生確認例も同じVGCF−Sだった。
遠藤教授は「(昭和電工から)疑わしい例があると聞いている。安全性については専門家ではないのでコメ
ントできない」、信大の渡辺裕・人事労務担当理事は「初めて聞いた話であり、コメントできる立場にない」と述べた。
小山教授は「危険性があるのだから(凍結は)企業として当然の行為だ。私の研究が企業に伝わっていな
かったのは大変残念だ。新しい素材であるがゆえに、安全性に対する検証がより大切になるだろう」と話した。
■ソース:信濃毎日新聞[信毎web] 6月16日(水)
http://www.shinmai.co.jp/news/20100616/KT100615FTI090020000022.htm