聴くのは楽しいが、ストラビンスキーの「春の祭典」は指揮者には難曲中の難曲らしい。故岩城宏之さんは豪州での
本番の舞台で、演奏が途中で止まる大失態を演じてしまった
▼曲は不協和音が連続して複雑だ。岩城さんによれば、疲れ果てたラストに最大の難所が来るという。そこで指揮棒を
振り間違えて演奏は「崩壊」した。音の消えた会場は凍りつき、体がガクガク震えた。途中からやり直したが、
恥じ入るほかはなかったそうだ
▼さて、自らを「楽団の指揮者」にたとえる鳩山首相である。難曲ならぬ難局をどうさばくのだろう。沖縄への謝罪行脚で
疲れ果てたところへ、社民党の福島党首との不協和音がけたたましい。棒さばき次第では連立は終止符と相成る
▼社民党にとっては、普天間の県外移設は党是に等しい。旗をおろせば支持者を裏切る。だが政権を抜ければ、参院選を前に
「その他大勢」に埋没してしまう。損と得を計りながらの、それゆえ高らかな、党首のパフォーマンスでもあろう
▼首相の棒さばきは就任当初から覚束(おぼつか)なく、普天間問題でも閣僚が勝手な音を出してきた。いっときは
「腹案」なる新曲が注目されたが、ここに来て楽譜すらなかったことが露呈した。
もはや聴衆からお金を取れる演奏とは言い難い
▼首相は3月の党首討論で、県外移設を「命がけで」と力を込めた。「いのちを守る内閣」の「命がけ」はかくも軽かった。
同じ言葉を一昨日、福島さんも沖縄で言った。沖縄が期待をつなぐこちらの「命がけ」の軽重も、遠からず明らかになる。
ソース:
http://www.asahi.com/paper/column20100527.html