先週末、米国はギリシャをまじまじと見て、おびえた。これほど小さな経済国が欧州全土を苦境に陥らせ、ユーロさえをも爆発
させかねないなんて、本来あり得ないはずなのに、実際そうなっている。
かつて米国の金融危機として始まったものが、欧州を景気後退に陥れた。今度は欧州がお返しをしようとしているのだろうか。
欧州の問題は自分たちが抱える問題について一体何を物語っているのか、と米国人は考え始めた。
■EUの景気落ち込みを懸念する米
今の混乱の原因であるギリシャの国家財政は、より広範なソブリン債危機の不安を誘発し、米国政府の借り入れに関する懸念
を高じさせた。もっと目先のことを言えば、投資家は今、もし欧州連合(EU)がこの問題への対応でしくじり続けたらどうなるか、と
問うている。
そうなれば、第2の欧州の銀行危機が起きるのか。そして、それは米国の金融システムにも感染するのか。仮にその答えがノーで
あっても、米国の景気回復は今も脆弱(ぜいじゃく)だ。EUの需要が再び落ち込むようなことがあれば、米国経済は影響を免れない。
(中略)
しかし現在、米国にとってより大きな心配の種は、欧州が米国の行方を暗示しているということではなく、ギリシャ問題の2次的な
影響と、緊急事態の広がりがまだ弱い景気回復の芽を摘んでしまう展開だ。
こうした影響は、反対の作用を及ぼしている。安全を求めて欧州市場から逃避する動きは、投資家を米国債に連れ戻し、金利を
押し下げる。その一方で、これはユーロを下落させるため、米国の輸出品は重要な市場で競争力を失うことになる。
■米の銀行・ノンバンクへの波及も
もし、欧州の景気回復――欧州の回復は米国と比べると遅くて弱い――が完全についえたら、米国はその影響を免れないだろう。
もう1つ大きなリスクが、金融面での感染だ。ギリシャがデフォルト(債務不履行)したと仮定しよう。そうなれば、欧州の銀行システム
全体に損失が広がる。ほかの欧州諸国にもデフォルトの圧力がかかるかもしれない。ポルトガルとスペインが筆頭格だが、それ以外の国
にも広がる可能性がある。
米国の銀行やノンバンクが、直接的、あるいはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などのデリバティブ(金融派生商品)を通じて、
これらのリスクにどれほどさらされているのかは、実際にデフォルトが起きるまではっきりしないかもしれない。
金融の荒波が再び生じようものなら、もはや財政出動の余地のない米国政府、銀行救済の意欲を使い果たした国にぶち当たること
になる。
(中略)
デフォルトの可能性はかつてないほど高まっているように見える。多少は秩序を保てることを願って、デフォルトを計画することはできる。
もっとも、計画的なデフォルトを行う絶好のチャンスは既に逃してしまったが…。あるいは、現実を否認し続けて、その間、問題をさらに
悪化させ、無計画なデフォルトが起きる可能性もある。
(中略)
これ以上に難しいのは、ギリシャがデフォルトしたら欧州の難局は解決されるのか、という問題である。筆者は、解決されないと思っている。
ギリシャは、巨額の基礎的財政赤字を抱えている。少なくとも債務再編の後しばらくは、貸し手を見つけるのに苦労するはずだ。
このため、仮に債務をチャラにできたところで、ギリシャは良くて多大な苦痛を伴い、最悪の場合、政治的に実行不能な緊縮財政の
時期に直面する。需要を下支えする中央銀行もなく、切り下げるべき自国通貨も持たないからだ。
EUは、何が何でもデフォルトは回避しなければならないと述べている。筆者の考えでは、デフォルトは起きる。また、EUは、ユーロからの
離脱は選択肢にないと述べている。筆者は、これも当てにはしない。いずれにせよ、米国は覚悟しておいた方がいい。
ソース(日本経済新聞、5月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 Clive Crook氏)
http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C9381959FE3E2E2E1978DE3E2E2E7E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;at=DGXZZO0195570008122009000000