東京都内で今月、覚せい剤取締法違反(譲渡、所持)などの疑いで逮捕された男三人が、借金の肩代わりを条件に、
覚せい剤の売人に仕立て上げられていたことが分かった。三人とも携帯電話を使ったヤミ金融「090金融」の取り立てに
追い詰められた多重債務者で、捜査関係者は背後で密売組織が暗躍しているとみて警戒している。
捜査関係者によると、逮捕された三人のうちの一人は昨年夏、聞き覚えのない男の声の電話を受け、「借金をどうにか
してやる。金を郵送するから、すぐに新幹線で東京に来い」と告げられた。
男は借金を重ねていたため金融業者から融資を断られるようになり、「090金融」と呼ばれるヤミ金融業者に手を出す
ようになっていた。山口県内の自宅に旅費が入った封筒が届き、待ち合わせ場所に指定された東京都台東区内の駅へ。
そこで声を掛けてきた人物に覚せい剤の売人になるよう指示された。
用意されたアパートに住み込み、携帯電話で指定された都内の駅に出向いて、覚せい剤を小売りする「営業」が始まった。
電話の主は複数で、忙しい時は毎日のように呼び出し音が鳴った。
当初の約束通り、覚せい剤を売り始めてから、地元に残る家族への借金の督促は止まった。電話の男らとヤミ金業者の
間に、どんな関係があったのかは分からない。
男は今月初旬、警視庁に逮捕された。調べに対し、「来年にはやめて、地元に帰りたいと思っていた」と供述しているという。
男のほかに逮捕された二人も、三重県などから呼び出され、覚せい剤の密売を続けていた。
薬物の密売人として、密売組織が多重債務者に目を付けるようになったのは、今年に入ってからとみられる。
捜査関係者は、密売組織自体が090金融を営み、利用者を“スカウト”している可能性を指摘する。
捜査関係者は「薬物使用者は商品に手を付けるので密売人には向かない。薬物に無縁の人が狙われている」と話して
いる。
◆依存症治療 “完治”は2割
「薬物汚染」が進んでいる。芸能人だけでなく、有名大学の学生の逮捕が相次ぐなど社会への浸透ぶりを示す事件は
増える一方だ。密売組織が多重債務者に目を付けて流通ルートを広げれば、薬物汚染の深刻化は必至だ。「クスリを
断ち切りたい」という患者が全国から集まる静岡県富士市の専門病院を取材した。
東名高速富士インターチェンジから車で十分余り。覚せい剤などの薬物やアルコール依存症治療を専門とする「聖明
病院」は、富士山のふもとに立つ。三階に重症患者向け閉鎖病棟があり、ここに常時四十人ほどの男女が入院している。
病棟奥の個室「特別観察室」は八室。禁断症状で暴れる患者を一時的に隔離する。患者の脱走を防ぐため扉は
施錠され、監視カメラが壁の鉄格子越しに常時撮影している。
室内には布団と和式便器以外、何もない。患者の自傷行為を避けるためだ。便器洗浄レバーも室外にあり、必要に
応じて看護師がレバーを引く。「患者はまずここで一、二週間過ごし、薬物への欲求を抑えるのです」。近藤直樹院長が
語る。
東京や大阪からも患者は来る。十代後半から四十代の男性が大半を占める。治療プログラムは約三カ月間。特別
観察室から出ると、カウンセリングなどで自らの依存症を自覚させる。その後、ミーティング形式の集団精神療法が始まる。
特定非営利活動法人(NPO法人)「全国薬物依存症者家族連合会」の林隆雄理事長は「カウンセリングなどを
取り入れた専門医療施設は全国でも五カ所ぐらいしかなく、受け皿が少ないのが実情です」と言う。
近藤院長は「退院した人でも、完全に薬をやめられるのは二割ほど」と明かす。薬物使用時の幻覚がよみがえる
「フラッシュバック」に苦しむ人は多い。
最近はクラブやインターネットを通じ、興味本位で覚せい剤に手を出した主婦や大学生の患者が増えている。近藤院長
は訴える。「一度くらいなら、と軽い気持ちで手を出す人は、薬物依存の本当の怖さを知らない」
(以下略。全文はソース元でどうぞ)
ソース(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009122102000048.html