★国際コンクールや舞台で関西旋風――バレエ、名伯楽得て若手台頭
写真 奥村康祐(左)、金子扶生(中)に指導する地主薫=大阪市の地主薫バレエ団
http://www.nikkei.co.jp/kansai/img/img004230.jpg バレエ界で関西旋風が巻き起こっている。関西出身の若手ダンサーが国際コンクールに
相次ぎ入賞するなど活躍が著しい。その裏には、秘めた才能を伸ばし、ダンサーとして
大切な心構えを説く名伯楽の存在が見逃せない。
今月12〜18日、新国立劇場(東京・初台)で開かれた「ドン・キホーテ」の公演。
最終日に主役デビューしたのが大阪府出身の福岡雄大(25)だ。
ジャンプや回転などの技を優美に決め、恋人たちの歓喜があふれる
第3幕のグラン・パ・ド・ドゥではひときわ大きな拍手が上がった。
福岡は今シーズンから新国立劇場バレエ団の契約ソリストを務める。
芸術監督の牧阿佐美は「入団したばかりでいきなり主役に抜てきしたが、きちんと応えてくれた。
素直で感性が良く、線もきれい。経験を積めばもっと大物になる。これからが楽しみ」と期待する。
◆「素直でないと」
同バレエ団にはほかにもプリンシパルの山本隆之や、福田圭吾ら大阪出身の男性ダンサーが活躍する。
3人の共通点はケイ・バレエスタジオ(大阪市港区)で学んだこと。
師は同スタジオを主宰する矢上香織、久留美、恵子の3姉妹だ。
矢上恵子は「うまくなるには素直でないといけないと言い続けてきた。素質や技術よりも重要」と言う。
男性ダンサーの場合、女性に比べて絶対数が少ない分、発表会や公演などの需要は絶えずある。
だが、おごりから成長の止まるダンサーも少なくないという。
「男性ダンサーは希少価値が高いから、10代のうちから『先生』と呼ばれたり、
接待を受けたりと、ちやほやされがち」(久留美)。それだけに生活態度の指導はきめ細かい。
例えば、接待で焼き肉店に連れていかれれば、自分から注文していいのは「大ライス」だけ。
笑いながら、“不文律”を話す姉妹の口ぶりに、厳しくも温かい愛情がのぞく。
福岡に自身の強みを尋ねると、即答が返ってきた。
「だめなとき、調子に乗っているときに注意してくれる師匠がいることです」
◆国内に活躍の場
今年のモスクワ国際バレエコンクールで共に銀賞を受賞したのが、大阪市天王寺区の
地主(じぬし)薫バレエ団に所属する奥村康祐(24、シニア部門)と、その教室に通う
金子扶生(ふみ、18、ジュニア部門)だ。2人で「くるみ割り人形」を踊った後、名ダンサー、
ウラジーミル・ワシリーエフが舞台袖まで来て「流れるように繊細で美しい」と称賛したという。
この2人も師である地主薫への信頼は厚い。「毎日勉強になり、吸収してもしたりない」(金子)、
「外国のコンクールへ行くと基礎ができていると評価される。基礎をしっかり教えてもらえている」(奥村)という。
地主は「自分の失敗談もさらけ出して、相手が分かったと思えるまでしつこいくらい伝える」と話す。
ケイ・バレエ、地主薫バレエ団とも設立から30年にも満たない。
両団体の指導者は、「生徒たちが幼いころからたっぷりエネルギーを注いできた」(舞踊評論家の桜井多佳子)。
これまでは関西から海外に拠点を移すダンサーが目立ったが、国内でも新国立劇場バレエ団のような
受け皿が整いつつある。公演の数も多く飛躍のチャンスも広がってきた。桜井は「国内でも海外でも、
活躍中のダンサーの中には関西出身者が多い。自己アピールもしっかりして、舞台上でのサービス精神が旺盛。
ダンサーとしてプラスに働く」と指摘する。=敬称略(大阪・文化担当 関優子)
日経ネット関西版
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