富裕層に包括的な金融サービスを提供する「プライベートバンキング」の敷居が低くなってきた。世界的な金融危機によりミリオネア
(億万長者)が減少したことに加え、守秘義務を盾に顧客情報を開示しなかったスイスの銀行の伝統が崩れたためだ。
スイスのプライベートバンクは、長らく匿名銀行口座の開設先として富裕層にひいきにされ、最低100万スイスフラン(約8870万円)
の投資資産を持つ富豪でなければ門前払いしてきた。
しかし、プライベートバンクの代表格であるバンク・プリベ・エドモンド・ド・ロスチャイルドやクレディ・スイスなどは今や、100万フランの半分
未満の資産しか持たない人にも、ひそかに仲間入りを呼び掛けている。金融危機とスイスの銀行の守秘義務制度の崩壊で、既存の
顧客を失ってしまったのが理由だ。
ロンドンを拠点に富裕層の資産管理を助言するスコーピオ・パートナーシップのグレアム・ハービー取締役は、プライベートバンクに関して
2つの誤解があると指摘。「まず、プライベートバンクのかなりの顧客は、投資最低水準を大きく下回る資産しか持っていない。金融危機が
起こった今ではなおさらだ。2つめに、こうした顧客はよりよい収益源になる可能性がある」と説明した。
08年、世界の金融市場からは12兆3000億ドルの富が失われ、ミリオネアは15%減の860万人になった。しかし、ボストン・
コンサルティングの調査によるといわゆる「富裕層市場」が大衆の一部を取り込んで拡大すれば金融機関は資産を集めて手数料収入を
増やすことができる。
それほど金持ちではない顧客を狙っているのは、スイスの金融機関だけではない。スコーピオの08年の調査によれば、英資産運用会社
のうち25社は、契約に必要な初期投資額に満たなくても顧客を受け入れていた。
ジュリアス・ベア・ホールディング傘下のプライベートバンク、バンク・ジュリアス・ベアのボリス・コラルディ最高経営責任者(CEO)は「ちまた
では口座開設に200万フランとか500万フランが必要と考えられているが、そうではない」と述べ、資産を数倍に増やす潜在能力があれば、
資産50万フランの顧客受け入れも検討する考えを示した。
プライベートバンクの対応の変化の背景には、米国、フランス、ドイツによる銀行機密法の緩和圧力を受けて、富裕層資産管理に最適
とされたスイスの地位が脅かされている現状がある。クレディ・スイスのプライベートバンク部門のワルター・ベルヒトルトCEOも「われわれには
資産が100万フラン未満でもそれを増やす可能性を持つ顧客が世界中にいる」と述べた。
エドモンド・ド・ロスチャイルドの報道担当、バレリー・ボスカ氏も、顧客に求める資産に最低水準はないと話している。
スコーピオのハービー氏は、資産規模の大きい顧客は銀行にとっては厄介な面もあると指摘する。手数料の交渉を求めたり、外で個人的
な投資アドバイザーを雇ったりするほか、場合によってはプライベートジェットの予約をさせられたり、子供の学校選びを手伝わされたりすること
もあるからだ。
これに対し、資産規模が比較的小さい顧客は手ごろな投資商品を銀行側が提供すれば、より高い利益を生むようになるという。
ただ、銀行がこうした顧客を獲得した場合、サービスのレベルも相応に下げて利益を確保する必要があるとも指摘した。
ソース(MSN産経ニュース・ブルームバーグ)
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090922/fnc0909221627003-n1.htm