防衛省が意外な人気を博している。昭和史の舞台となった敷地内の施設を一般公開する「市ケ谷台ツアー」の
見学者数が堅調に推移しているのだ。このところの防衛省は、イージス艦と漁船の衝突事故や田母神俊雄・
前航空幕僚長の更迭問題など不祥事が続出しているが、ツアー開催の背景には、存在そのものが問われた
過去を乗り越え、自衛隊への国民の認知度を高める思惑が込められている。
【昭和史を身近に】
「作家三島由紀夫が立てこもり自殺したのはこちらの部屋でございます」。3月11日。黄色いジャケット姿の
案内役、通称「市ケ谷レディース」が説明すると、見学者から「えー、ここが…」とどよめきが漏れた。都内の
女子高が戦争遺跡見学を企画し、生徒ら計約70人が訪れていた。
見学の目玉は1937年に旧陸軍士官学校本部として建設された市ケ谷記念館。戦後は極東国際軍事裁判
(東京裁判)の法廷となり、その後、陸自東部方面総監部として使われた。2000年、防衛省の陸自市ケ谷
駐屯地への移転に伴い、主要部分を約200メートル西側にずらして復元した。
70年、三島が割腹自殺した部屋は記念館2階にあり、当時の東部方面総監室。室内の扉には三島が
日本刀で切りつけた傷跡が3カ所残る。
1階の大講堂が東京裁判で戦争指導者たちが裁かれた現場。今は映画「硫黄島からの手紙」でも有名な
栗林忠道中将が家族にあてた手紙など戦中の品々を展示。当時のまま移設した7200枚の寄せ木造りの
床が今も鈍い光を放っている。
見学した女子高生は「日本史の教科書に載っていることが身近に感じられた」と感想を語った。
【海外派遣の理解深める狙いも】
一般公開は、防衛省が00年に東京・赤坂から移転したのを機に開始。自衛隊を広く一般に理解してもらう
狙いから企画された。
参加者数は初年度の約3万9000人が最高。その後減少したが、05年度以降はほぼ2万数千人で推移し、
08年度も2月末現在で約2万1000人に上る。小中高校の修学旅行や社会科見学に加え、政治家が地元
支援者の都内案内コースに加えるケースも。ほかに自衛隊に興味のある中高年が多いという。
防衛省幹部は「見学に来る人は“自衛隊シンパ”が多いので、そうではない人にも来てほしい」。見学コースの
中にはインド洋で各国艦船に給油する海上自衛隊の活動の上映も。今後は、ソマリア沖の海賊対策で
派遣された護衛艦が民間船を警護する様子の映像を流し、理解を深めてもらうことも検討中だ。
見学は平日の午前、午後各1回。希望者は防衛省のホームページから申し込むか、防衛省広報課記念館係、
(TEL省略)まで。
http://www.zakzak.co.jp/top/200903/t2009031839_all.html ZAKZAK(
http://www.zakzak.co.jp/index.html)2009年3月18日