『だれが「スポーツ」を殺すのか 〜暴走するスポーツバブルの裏側〜』シリーズ
業績悪化で“休・廃部”が続出。不景気で切り捨てられる「企業スポーツ」の脆い体質
2008年の後半に種々の競技で企業スポーツの休・廃部が相次ぎ発表され、
社会的な反響を呼んだ。08年1年間の休・廃部を列挙してみよう。
■陸上競技: セガサミー(廃部・3月末)、三洋信販(廃部・10月末)、
ファイテン(廃部・12月末)
■野球: 三菱ふそう川崎(休部・11月)、デュプロ(廃部・11月)
■女子サッカー: 田崎真珠(今季限りで休部)
■アイスホッケー: 西武(今季限りで廃部)
■アメリカンフットボール: オンワード(今季限りで廃部)
いずれの場合も、企業側は、経済環境の悪化に伴う業績不振による経費
節減を理由としており、景気や業績に左右される企業スポーツの脆い体質
が改めて浮き彫りとなった。
(株)スポーツデザイン研究所の調べ(下記)によると、1991年から2008年までの
企業スポーツ休・廃部は、324社にものぼる。とくにバブル経済崩壊後の不景気で
休・廃部が急増し、98年49、99年58、2000年44、などとなっている。
◎年次別「企業スポーツ休廃部数」一覧(1991〜2008年)
http://diamond.jp/series/img/series/sports_bubble/sports_bubble1201.gif 【(株)スポーツデザイン研究所調べ】
一方、競技種目別(07年6月現在)には、以下のとおり。
野球83、陸上39、バレーボール38、バスケットボール26、卓球25、スキー12、
サッカー18、ハンドボール13、ラグビー10、テニス、ソフトボール、バトミントン9、
アメリカンフットボール8、アイスホッケー6など。
このなかで、休・廃部によって影響の大きいのは、チームゲームの球技だ。
切られて行き場を失う部員が数多く出てくる。そればかりでなく、チーム数の
減少によって国内のリーグ戦にも影響を及ぼす。さらにいえば、企業スポーツ
は、戦後日本のエリートスポーツを支えてきた柱であり、それが揺らぐことで
エリートスポーツ全体も弱体化せざるを得なくなる。
企業スポーツに依存するだけで無為無策のまま過ごしてきた競技団体は、
今や深刻な事態に直面しているといえよう。
●西武アイスホッケー廃部の衝撃 「リーグ崩壊」の惧れも・・・
08年の暮れになって突如発表された西武アイスホッケー部廃部は、メディア
の大々的な報道にも表されているように、他とは比べようもないほどの衝撃を
与えたといえよう。
アイスホッケー界で西武は、別格の存在だった。というのも西武鉄道グループ
の総帥だった堤義明氏は、63年に「東京西武」を結成してアイスホッケー界に
参入、日本スケート連盟から独立した日本アイスホッケー協会を設立し会長に
就任、日本リーグを牽引した経緯があるからだ。
堤氏は、アイスホッケーをグループ企業のスポーツ・レジャー事業に直結させた。
▽ソース ダイヤモンド・オンライン 2009年01月05日
http://diamond.jp/series/sports_bubble/10012/ http://diamond.jp/series/sports_bubble/10012/?page=2 >>2以降に続く
>>1の続き
「アイスホッケーならスケート競技だ。スキー、スケートの国土計画(現在のコクド)
としては企業イメージに合う。軽井沢の土地分譲にもいいかな、と考えました。
それもウチ1社でなく西武グループのものとして“東京西武”とした。これで百貨店
の購買力にも結びつくことが期待できるわけです。強化のための費用もかけます。
しかし、企業宣伝費と考えれば安いものですよ。新聞に社名が出たり、テレビ放送
されたりする。これはたいへんな広告です。経費がいくらかかるといっても、
宣伝費の100分の1でおとせますよ」。
このように、スポーツがもたらす企業メリットを堤氏はあからさまに語っている。
堤氏の率いる西武鉄道と国土計画の2チームは、日本リーグの中心的存在となっ
た。しかし、岩倉組、古河電工、雪印などが次々に廃部し、西武も廃部とともにコクド
に統合(06年西武に改称)され、日本リーグそのものがジリ貧状態となり、堤氏は、
韓国や中国のチームを取り込んだアジア・リーグでアイスホッケーの存続を狙った。
アイスホッケーを足がかりに、日本体育協会副会長、JOC(日本オリンピック
委員会)会長に上り詰めた堤氏は、03年有価証券報告書虚偽記載で逮捕され、
グループ総帥の座から追放されるとともにスポーツ界の要職をすべて辞した。
それから4年が経過したが、今回の西武廃部は、堤氏の影響力の完全消滅
を表しているとも思われる。いずれにしても、廃部の連鎖反応が起きてリーグ
そのものが崩壊する惧れもある。
●企業の論理で選手も首切りへ。無策の競技団体のツケ?
経済の悪化を理由に、企業による情け容赦のない理不尽な労働者の大規模
な首切りが後を絶たない。そうしたなかで、スポーツ選手だけを特別扱いにする
ことはできない、という企業論理に基づいて、休・廃部による選手の切捨ても断行
されているのだ。
スポーツデザイン研究所では、「今年も休・廃部は、まだまで出てくるし、
スポーツ部への経費を削減する企業も多くなるでしょう」と予測している。
とくに注目されるのは、トヨタである。国内リーグのなかで関連企業を含めて
トヨタは、男女バスケットボール、ソフトボール女子、ハンドボール男子、
バレーボール女子など1リーグに2から4チームも参加しているケースがある。
もし、トヨタが撤退すればたちどころにリーグは崩壊してしまうだろう。
一方、競技団体は、休・廃部をしないように請願する企業回りをしているらしい。
しかし、そうした請願で企業スポーツの休・廃部の動きをストップさせるのは無理だろう。
企業スポーツ依存の体質を変革しないかぎり、事態を切り開く道は見えてこない。
目先にとらわれず、長期ビジョンに基づいて競技人口を着実に増やしていくことが、
競技団体にとって喫緊の課題といえよう。(了)