★【主張】オバマ氏圧勝 信頼と指導力の回復を 経済危機克服に態勢整えよ
世界がかたずをのんだ米大統領選は、「若さと変革」を掲げた民主党のバラク・オバマ候補(47)が
ジョン・マケイン共和党候補(72)を圧倒的大差で破り、次期大統領に当選した。
オバマ氏は米史上初の黒人大統領という歴史的意義を背負って、金融危機など山積する
内外の重要課題に取り組むことになる。
オバマ氏に求められるのは、国際社会と欧州・アジアの同盟国の主張に耳を傾け、
自由や民主主義の価値を協調的に広げていく上で、世界の信頼と指導力を早急に回復することである。
変革を通じた「強い米国」の再生を、国際社会の側からも積極的に支えていく工夫が必要になる。
≪国民の再統合に期待≫
今回の結果は、2期続いたブッシュ政権に対する国民の審判でもある。8年前、ブッシュ大統領は
党派対立の克服と「思いやりの保守」を掲げて登場した。だが、米中枢同時テロ後の対テロ戦争や
イラク戦争が思い通りに進まなかったこともあり、内外の批判を浴びた。ウォール街で火を噴いた
金融危機は財政金融面でも世界の信頼を失うダメ押しとなった。
有権者の75%が「国家の方向が誤っている」と感じ、最大の争点を「経済」(60%)と
位置づける中で、国民が根本的変化を求めて票を投じたといえる。
勝利演説でオバマ氏は「アメリカは一つだ。変革の時がきた」と訴え、党派対立を克服し、
国民一人一人が愛国心や犠牲の精神を発揮するよう呼びかけた。
米国では1990年代以降、二大政党による対立と分断の政治が絶えず、そのことが国際社会における
米国の指導力にも深刻な影を落とし続けてきた。世代交代を達成し、人種の壁も越えて指導者に選ばれた
オバマ氏には、勝者も敗者もない国民の再統合と「協調の政治」の復活を期待したい。
同じことは米国と世界とのかかわりについても言える。
オバマ氏は、対外関係では「新しいアメリカ」を立ち上げ、自立の精神、民主主義、自由、機会の灯を
絶やさず、「平和と安全を求める人々を支持する」とも約束した。今後、それを行動で示していくよう期待したい。
しかし、オバマ氏の選挙公約では、必ずしも新政権の外交目標や原則が具体的には示されていない。
そのことには懸念が残る。
とりわけ米国にとって当面最大の緊急課題は、世界を覆う米国発の金融危機の火を消すことだ。
15日には主要20カ国・地域(G20)首脳の金融サミットが米国で開かれる。
オバマ氏は次期大統領として出席し、国際社会に対して米国が責任ある対応を果たしていく
姿勢を示してもらいたい。
民主党政権には保護主義の伝統が目立ち、オバマ陣営も北米自由貿易協定(NAFTA)の
見直しなどを掲げてきた。世界が内向きになりがちな時である。
新政権が決して保護主義の誘惑に陥らないよう注文しておきたい。
次期大統領に就任する来年は冷戦終結20年の節目にあたる。世界は大きく様変わりした。
イラン、北朝鮮など大量破壊兵器の拡散や疑惑、中東和平、気候変動、貧困など地球規模の
課題に加え、国際金融システムの根本的見直しも俎上にある。
安定と平和が定着しつつあるイラクからどんな形で米軍が撤退するかも重要だ。
≪日本も戦略的に動け≫
イラク、アフガニスタン問題にせよ金融危機にせよ、米国一国でなく、国際協調で取り組まねば
ならないことは言うまでもない。と同時に、米国が自信と信頼を失ったままの状態にあることは、
世界にとっても、同盟国にとっても好ましいことではない。
世界秩序についても「米一極」から多極化へ移るのか、それとも主権国家以外の多様な勢力が
混在する「無極世界」となるのかが問われている。そんな時代に入っていることを忘れてはならない。
アジア最大の同盟国である日本にとっても、オバマ次期政権とのかかわりはきわめて重要だ。
中国やロシアとの関係、台湾、北朝鮮問題などに加えて、米軍再編を含む日米同盟をどう
発展させていくかが大きな課題となる。
そのためには、新政権の対アジア外交の形成プロセスに積極的にかかわり、日本の主張を
反映させていく外交が不可欠だ。麻生太郎首相にも、そうした戦略的視野に立って積極的に動いてほしい。
産經新聞
http://sankei.jp.msn.com/world/america/081106/amr0811060331011-n1.htm