★たらい回し政権の奇跡 郵政民営化 進む改革効果は限定
「郵政民営化に賛成か反対か、国民に問いたい」
2005年8月、小泉純一郎首相は郵政民営化関連法案の否決を受けて
衆院解散を決断し、記者会見で悲壮な決意を示した。「小泉劇場」の最高潮だ。
衆院選で自民党が掲げたマニフェストの冒頭には、民営化すれば
社会保障から外交安全保障までうまくいくような図が掲載された。
衆院選は自民党が圧勝。国民は民営化を支持した格好となった。
■コンビニは6店
あれから3年。小泉氏が06年9月に退陣した後も、安倍内閣、福田内閣が小泉氏が
敷いたレールを着実に走ってきた。福田政権時の07年10月、日本郵政公社が民営化。
持ち株会社日本郵政の下に、郵便局会社、郵便事業会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の
四社がぶら下がる形は小泉改革が目指したとおりだ。
国民生活にはどう影響したか。民営化で直営コンビニエンスストア「JPローソン」が
郵便局内にできたり、住宅ローンや変額年金保険なども申し込めるようになった。
ただ、JPローソンは首都圏の6店舗だけ。住宅ローンは自前でなくスルガ銀行の
住宅ローンの仲介で、販売実績は08年7月末で65億円どまり。
初年度目標2100億円には遠い。
過疎地からの撤退が心配された郵便局数は約2万4500局で減っていない。
だが、地方で個人や農協に委託している簡易局は一時閉鎖が相次いだ。
郵便局会社は56億円を投入して委託料を引き上げ、ことし9月下旬、
閉鎖局数は民営化時と同じレベルまで減らした。
分社化により、郵便事業会社と違って貨物運送の資格がない郵便局は、
顧客宅まで小包を取りに行けないという弊害も出ている。
現状では民営化によるマイナスやしわ寄せは少なからずあり、メリットは限定的だ。
■収益に格差
日本郵政グループを企業としてみると、民営化後半年間の08年3月期決算は、
連結で2772億円の純利益を計上、順調な滑り出しだ。だが、半分以上を
ゆうちょ銀行が稼いでいる。150億円の利益を見込んでいた郵便局会社は46億円。
経営状況の「格差」は見逃せない。
各社の自立は、日本郵政の株式売却に向けても不可欠。
小泉氏は、売却益で国庫を潤すことも民営化のメリットとして挙げていただけに、
頓挫すれば国民負担に跳ね返る。
■持論解禁
民営化から約1年。国民のメリットが見えにくい現状で、見直しに向けた動きが急だ。
民主党と国民新党は9月中旬、郵政事業の抜本的な見直し策で合意。
民主党政権が誕生すれば、大幅な見直しが行われるだろう。
与党でも、かつて民営化に反対した議員らが「郵政研究会」を結成。
10月初旬に「郵便局会社と郵便事業会社の一体的な経営の確保」などを求める決議をまとめ、執行部に提出した。
自民、公明両党の連立政権合意も「ユニバーサルサービスの確保、利便性の向上を図るための改善を行う」と書いた。
麻生太郎首相も郵政の現状には満足していない。
先月、自民党総裁選の討論で「郵便局に窓口が(郵貯、郵便、簡保の)三つあるが、
郵貯だけに行列があり、あとは人がいない。サービス低下ではないか」と述べている。
麻生首相は小泉政権下で総務相を務めた。
民営化論議の際は「分社化で弱体化させず三事業の一体経営の継続を」と訴えていた。
総裁選での発言は、持論を述べたにすぎないが、数年封印してきた意見を堂々と
語るようになったことは「改革の本丸」が色あせたことをはっきり表している。
東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/scope/CK2008101802000161.html