★グルジア情勢 戦闘の即時停止が先決だ(8月10日付・読売社説)
懸念されていたグルジアとロシアの軍事衝突が現実のものとなった。
戦闘は拡大の様相を呈しており、事態は深刻さを増している。
戦闘勃発(ぼっぱつ)の原因について双方とも相手を非難しているが、
戦闘を直ちに停止することが肝要だ。そのうえで、事態打開の道を探るため、
直接対話に臨むべきだ。
両国は、グルジア・南オセチア自治州の分離独立問題をめぐり、対立を深めてきた。
自治州は、住民の多数を占めるオセット人がロシア国籍を持つなど親露的な地域だ。
ロシア領北オセチア自治共和国への編入絡みで、1990年代はじめから分離独立の動きを強めていた。
これを認めないグルジア軍との間で戦闘が続いたが、92年に両者と、分離派を支援する
ロシアが停戦に合意、3者による平和維持軍が展開していた。
しかし2004年、グルジアに登場したサアカシビリ政権が親欧米路線を鮮明にするに従って、
ロシアは態度を硬化させた。
特に、サアカシビリ政権が北大西洋条約機構(NATO)加盟に意欲を見せていることに
神経をとがらせ、南オセチアへの軍事的、経済的なテコ入れを強化、グルジアに対する圧力を加えた。
ロシアには、旧ソ連圏における影響力行使については一歩も譲れない、との意識が働いているようだ。
豊かなエネルギー資源をバックにした最近の攻撃的な外交姿勢とも通じるものだ。
ロシアのメドベージェフ大統領は、「ロシア人の生命を守る」と軍事介入を正当化している。
しかし、南オセチア住民の多数の意思が親露的であることは事実だとしても、
南オセチアがグルジア領であることもまた厳然たる事実である。
南オセチアへの分離支援が正当化されるなら、
ロシアはチェチェンの“分離”をも容認すべきだということになるのではないか。
領土保全が絡む国家間紛争は、しかるべき外交交渉で決着をつける筋合いのものだろう。
グルジアは、カスピ海の原油を欧州に輸出するパイプラインが通る要衝でもある。
グルジア情勢が流動化するようであれば、特に欧州経済が被る打撃は小さくない。
グルジアを含むカフカス地域はもともと、多くの民族対立を抱える地域だ。
南オセチア問題がこれらの対立に“引火”しないよう、国際社会、とりわけロシアは十分に意を払う必要がある。
讀賣新聞
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080809-OYT1T00646.htm