刑を少しでも軽くするため、被告の親族や知人に有利な証言をしてもらう情状証人。罪を認めて争わない裁判では、
被告がこの情状証人を自ら断るケースはあまりない。
育毛剤などの万引で窃盗罪に問われ、大阪地裁で16日に開かれた無職男(43)の初公判。「今回は全面的に罪を
認めて刑に服するつもりなので情状証人は必要ありません」。男は事前にこうした上申書を裁判所に提出していた。
しかし、検察官から情状証人を断ったことを追及された男は−。
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起訴状によると、男は5月25日午後、大阪市中央区の地下街のドラッグストアで、育毛剤と日焼け止めセット
計5点1万8060円相当を万引した。
法廷に現れた男はグレーのシャツに半ズボン姿。頭髪が薄く、年齢より少し老けてみえる。少しでも頭髪を増やして
若く見せたかったのか、男が盗んだのは1つ数千円もする高級育毛剤だった。
検察側の冒頭陳述によると、男は大阪市西成区のアパートで独り暮らし。以前パチンコ台のメンテナンスなどを
仕事にしていたが、辞めた後は無職となり、生活に困窮した。かつて使用していた育毛剤がたまたま目に留まって
ほしくなり、日焼け止めセットは以前、女性にあげたら喜ばれたため一緒に万引したという。
男は前科4犯。覚せい剤取締法違反罪が1回のほかは、同様の万引で3回起訴された。今回の犯行時、男は
窃盗事件の1審判決で有罪となって控訴し、保釈中の身だった。
(中略)
検察官「前回の万引については否認してましたね」 男「否認ではないです。睡眠薬を飲んでいて事件を覚えていないだけです」
検察官「控訴中なのになぜ万引をしたのか」 男「自覚が足りなかった。反省できておらず、失念していた」
検察官「何を失念していたのか」 男「反省です」
検察官「2度と盗みはしないというけど」 男「覚醒剤も固い決意でやめましたし、今後刑務所に行って反省しようと」
検察官「でもまた窃盗をやったわけですよね。窃盗はやめられないのでは」
男「いやそんなことないです。2度としないです。反省しています」
根拠なく「反省」という言葉を繰り返す男にいらだった様子の検察官。情状証人を断ったことへの追及を始めた。
検察官「今回の事件で(逮捕された当時)面会に来てくれた人は何人いたの」 男「えーと、6人です」
検察官「その6人の名前を挙げてもらえますか」 男「○○さんと●●さんと、▽さんは下の名前しかわからないんですけど…」
検察官「面会に来てくれた人の名字もわからないんですか」
男「あー、確か名字は■■さんだったかと…。やっぱり面会に来たのは4人ですわ」
検察官「はい。もう結構です」
うそを見透かされたようなばつの悪い表情で男は黙ってしまった。
検察官「被害弁償を知人に頼んだのはいつか。それでいくら考えているのか」 男「頼んだのは6月初め。最低でも2、3万。できるなら4、5万円」
検察官「6月に頼んで1カ月もたっているのにまだなのはなぜ」 男「手紙の行き違いとかで」
検察官「本当は情状証人に来てくれる人がいないんじゃないの」 男「…。いえ、そんなことないです」
検察官に核心を突かれてうろたえたのか、男はか細い声で答えた。
何度も犯行を繰り返す懲りない男に親族や知人は愛想を尽かしたのか。それとも、男が言うとおり自ら断ったのか。
ただ、情状証人は刑の減軽目的だけではなく、刑期後などに再犯しないよう監督する立場の人が身近にいることの
証明にもなる。裁判官の心証をよくするためにも重要だ。
情状証人として出廷してくれる人がいれば、被告本人が断ったとしても弁護人が説得して出廷を求めるだろう。
論告でも検察官は情状証人がいないことに苦言を呈した。「控訴中に再び窃盗で逮捕され、情状に来てくれる人も
いなくなった被告にもはや更生の余地はない」と指弾。「犯行は自己中心的で動機も短絡的」として懲役2年を求刑した。
男は最後に「非常に申しわけないことをした。2度としないよう反省していきたい」と意見陳述して結審した。判決は
来月20日に言い渡される。
ソース(MSN産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080721/trl0807211727001-n1.htm