★イラク派遣訴訟控訴審判決要旨 名古屋高裁
自衛隊のイラク派遣をめぐる訴訟の控訴審で、名古屋高裁が17日に言い渡した判決の要旨は次の通り。
【派遣の違憲性】
自衛隊の海外活動に関する憲法9条の政府解釈は、自衛のため必要最小限の武力行使は許されるとし、
武力の行使とは、わが国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいうことを
前提としている。
自衛隊の海外での活動については
(1)武力行使目的の「海外派兵」は許されないが、そうではない「海外派遣」は許される
(2)他国による武力行使への参加に至らない輸送や補給などの協力は、他国による武力行使と
一体となるようなものは自らも武力を行使したとの評価を受けるため許されないが、一体とならないものは許される
(3)一体化の有無は、戦闘活動の地点と行動場所との地理的関係や行動の具体的内容、協力する相手の
活動状況などを総合的に勘案して個々的に判断される−ことを内容としている。
イラク特措法はこうした政府解釈の下、人道復興支援活動または安全確保支援活動を行うこと(1条)、
活動は武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならないこと(2条2項)、
戦闘行為が行われることがないと認められる地域で実施すること(2条3項)を規定。
「国際的な武力紛争」とは国または国に準じる組織の間で生じる国内問題にとどまらない武力を用いた争いだ。
認定できる事実によると、2003年5月のブッシュ大統領による主要な「戦闘終結宣言」後も、
米軍を中心とする多国籍軍はバグダッドなどの都市で、多数の兵員を動員し武装勢力の掃討作戦などを繰り返し、
標的となった武装勢力は海外の勢力からも援助を受け、米軍の駐留に反対するなど一定の政治的目的を有して
相応の兵力を保持し組織的、計画的に多国籍軍に抗戦している。
その結果、多数の死傷者が出ており多国籍軍の活動は単なる治安活動の域を越えている。
イラクでは宗派対立に根差す武装勢力間の抗争や武装勢力と多国籍軍との抗争があり、
これらが複雑に絡み合い泥沼化した戦争の状態になっている。多国籍軍と国に準じる組織と認められる
武装勢力との間で、治安問題にとどまらない武力を用いた争いがあり、国際的な武力紛争が行われている。
特にバグダッドは07年に入っても、米軍がシーア派、スンニ派の両武装勢力を標的に掃討作戦を展開。
武装勢力も対抗し、多数の犠牲者を出しており、国際的な武力紛争の一環として殺傷や破壊行為が現に行われ、
イラク特措法にいう「戦闘地域」に該当する。
航空自衛隊は、米国の要請を受け06年7月ごろ以降、バグダッド空港への空輸活動を行い、
輸送機3機により週4、5回、定期的にクウェートの空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送している。
空自の輸送活動は、主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われ、それ自体は武力の行使に
該当しないとしても、現代戦では輸送なども戦闘行為の重要な要素であり、多国籍軍の戦闘行為にとって
必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているといえる。
空自の空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員を、戦闘地域のバグダッドへ空輸するものについては、
他国による武力行使と一体化した行動で、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない。
空自の空輸活動は、イラク特措法を合憲としても、武力行使を禁止した同法2条2項、
活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、憲法9条1項に違反する活動を含んでいる。
【平和的生存権】
平和的生存権はすべての基本的人権の基礎にあり、単に憲法の基本的精神や理念を表明したにとどまらず、
憲法上の法的な権利として認められるべきだ。
裁判所に対し、その保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求できる具体的権利性が肯定される場合がある。
憲法9条に違反する戦争の遂行や武力行使などで個人の生命、自由が侵害される場合などには、裁判所に対し
違憲行為の差し止め請求や損害賠償請求などにより救済を求めることができる場合がある。(以下略)
全文は共同通信
http://www.47news.jp/CN/200804/CN2008041701000689.html