首都圏の水がめとして計画浮上から半世紀がたっても完成せず、日本のダムで最も巨額な4600億円
もの事業費が投じられている八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の規模を、国土交通省が大幅縮小
する方針を決め、関係する1都5県に意見照会してきたことが分かった。当初計画より4割小さくなるという。
同ダムは過去に2度計画が変更され、工期が延長された。3度目の変更に自治体側は疑心暗鬼で、
東京都は「これ以上変更しない」との条件を付けた異例の意見書を国に提出し、変更を受け入れる。(溝上健良)
八ツ場ダムは、昭和27年に調査が始まり、61年に基本計画が決まった。その段階で平成12年度完成、
総事業費2110億円とされていたが、13年と16年の2度、用地買収の遅れなどから計画変更が繰り返された。
16年の変更では、物価上昇を理由に事業費が4600億円に倍増し、最も巨額なダムに。都と埼玉、
千葉、茨城、栃木、群馬各県の負担額も膨れあがった。
熊本県の川辺川ダムとともに「必要のない公共事業の横綱」とも批判されているが、こうしたなか、
国交省は1都5県に、工期をさらに5年延長する一方で、規模を縮小する3度目の計画変更案を提示してきた。
それによると、ダム本体の高さを131メートルから116メートルに縮小する。これはダムの底面までの
掘り下げを15メートル少なくできるためで、ダム頂上部の高さは元のまま、ダム湖の水位も変わらない。
あわせて、ダムの位置を最大約20メートルずらし、川幅のより狭い場所にダムを造成して堤の幅を
51メートル短くし、285メートルにする。
このため、貯水量にも変更はないといい、コンクリート量が4割以上減ることから、工期が延長しても、
総事業費は変わらないという。度重なる変更を、同省は「近年の調査から地質が想定していたより強固で、
基礎地盤までの掘削量を半分以下に減らせることが分かったため」(ダム工事事務所)と説明する。
3度目の変更に、「八ツ場」に翻弄(ほんろう)されてきた自治体の反応は厳しく、埼玉県の上田清司知事が
県議会で「(国に)ずっとだまされている」と不快感を表明。約636億円を負担する東京都も、幹部や都議から
「縮小となると、当初計画は何だったのか」「事業費が増大しないとはにわかに信じがたい」と不満が出ている。
ただ、国の着工に自治体側は治水・利水の観点から反対しないという。 人口減が本格化し、不要にも思える
水がめだが、都は「地球温暖化で長期的には、渇水の深刻化が予想される」として、(1)さらなる工期延長が
ないよう万全を期す(2)事業費増がないよう取り組む−などの条件付きで3度目の変更も「やむを得ない」と
同意する方針だ。開会中の都議会の議決を経て国に意見書を出すが、議会では是非をめぐって議論も予想される。
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