12月と1月に,「これからの特別養護老人ホームにおける看護リーダー研修」が3日間,
2会場で実施された。特別養護老人ホームに勤務する看護部長,看護師長,
看護主任・係長などの職位にあるおよそ130人が参加した。参加者は,各都道府県で
実施される「実務看護職員研修」でリーダーシップを発揮することが求められている。
この研修は,「特別養護老人ホームにおける看護サービスのあり方に関する検討会」
報告書(座長・伊藤雅治,平成16年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金事業)の
提言にもとづき毎年,開催されているものである。この検討会の委員であった私は,
上記の看護リーダー研修で「これからの特別養護老人ホームにおける看護のあり方(総論)」を
担当した。参加者の多くは,セカンドキャリアとして選んだ職場である特別養護老人ホーム
での仕事に燃えており,研修会場にはオーラのようなものを感じた。
入所者の重症化が進む特養
特別養護老人ホームは,老人保健施設と介護療養型医療施設とともに介護保険3施設である。
全国に5535施設,入所定員数は約39.5万人(平成17年度介護サービス事業所調査)であり,
平均要介護度3.74(平成18年4月審査分),平均在所日数は1429.0日(平成15年9月)である。
人員基準は入所者100人当たり医師(嘱託医で可)1人,看護職員3人,介護職員31人,
介護支援専門員1人等となっており,従事者数(常勤換算,平成16年10月1日)は,看護師7661人,
准看護師1万127人,介護職員13万6960人となっている。
特別養護老人ホームの入所者の要介護度は,介護保険制度導入時の平成12年10月では
平均要介護度が3.35であったが,平成15年10月には3.63,さらに平成18年4月には3.74と,
年々重度化している。また,入所者のうち認知症のある者は93.3%であり,認知症のケアが
標準となっている。平成14年に導入されたいわゆる優先入所基準(指定介護老人福祉施設の
入所に関する指針について;註)により,今後入所者の重度化はより一層進むことが予測され,
入所者に対する健康管理や医療的な対応が重要となる。また,特別養護老人ホームの
平均在所期間は1429.0日(約3.9年)と長く,71.3%が死亡退所であり,施設内死亡25.8%,
医療機関45.5%(平成15年9月)となっている。特別養護老人ホームは終のすみかとして
終末期ケアへの対応が求められており,看護職にとって安らかな死への援助という
看取りのケアが求められる。
看護実践の伝道師として
特別養護老人ホームにおける看護サービスのあり方は次の5点に集約される。
1)特別養護老人ホームは,生活の場であるという位置づけを再確認し,看護活動は入所者の
生活ニーズを優先した視点を基本とすべきであること。
2)特別養護老人ホームにおける看護は,日常生活を通じた健康管理が重度化の予防
につながるため,入所者との直接の接点が多い介護職員との連携が重要であること。
3)看護のアプローチは,入所者の尊厳の保持と個別性を尊重した「個人に対するアプローチ」が
重要であるとともに,重度の高齢者が集団で生活する場であるため,
「生活環境に対するアプローチ」が求められること。
4)いずれのアプローチにおいても,介護職員との連携は重要であり,個別のアプローチ
はケアプランを基本としながら,看護職員と介護職員の配置やシフトの工夫,記録の一元化や
システムの構築による情報共有の工夫が必要であること。
5)医療機関ではなく,施設で看取りを行ってほしいという入所者や家族の要望に応えて,
特別養護老人ホームにおいては,日常生活の延長としての看取りが望ましいこと。
検討会では,生活ニーズを優先した看護を実施するための基本的な活動として,
(1)食べることと飲むこと,(2)排泄すること,(3)身体を清潔にすること,(4)呼吸すること,
(5)体温を調節することをあげ,独自の視点で看護と医療との統合を試みている(伊藤雅治,
井部俊子監修:特別養護老人ホーム看護実践ハンドブック.64-92頁,中央法規,2006年)。
介護施設を看護実践の場として選択した看護リーダーたちは,節度ある医療とは品位ある医療であり,
医療というものは人間らしい自然の死を助けるためのものである(森亘:美しい死.283-296頁,
アドスリー,2007年)ことを人々に伝える伝導師の役目も果たしてくれるであろう。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02770_05