原油高の影響で世界的に需要が高まっている代替燃料バイオエタノールの原料となるトウモロコシの
値上がりが、日本の畜産業を直撃している。トウモロコシ配合の飼料価格が昨秋から急騰し、経営を
圧迫しているためだ。来年度の乳価の約3%引き上げが10日に決まったが、原料高を補えずに廃業
の危機に直面する酪農家も多く、影響は深刻だ。
「このままでは、えさ代で赤字だ」。熊本県菊池市の畜産農家、水上龍介さん(54)は悲鳴を上げる。
90頭余の乳牛と110頭の肉用牛を飼育し、毎月のえさ代は昨年より50万円もかさむ。
4年前に1億2000万円かけ、牛舎を拡張し、ふんなどを堆肥(たいひ)にするための堆肥舎を建てた。
借金の返済は年に数百万円で、牛肉の販売利益で家族4人の生活費をなんとかやりくりしている。
肝心の生乳価格は消費の落ち込みで低迷が続き、水上さんは「毎月、牛乳を売った代金が入る時期に、
それを上回る借金を返さないといけない酪農家も多い」と話す。
熊本県酪連によると、昨年4月に874戸だった酪農家数は今年12月までに100戸以上減少。「以前は
年3%程度の減少率だったが、この2年ぐらいは、倍のペース」という。九州では昨年3月末の2712戸
から約2400戸に減っていると見られる。
全国は今年2月時点で2万5400戸(農林水産省調べ)。全国の生産者団体で作る中央酪農会議は、
今年度中に1000戸以上の酪農家が廃業に追い込まれる、と危惧(きぐ)する。
農水省によると、配合飼料の価格は昨秋から1年間で約2割上がり、1トン約4万5000円から約5万
4000円になった。来年1月には、約5万8000円に上がる見込みだ。
原因はバイオエタノールの需要増だ。原油高を受けて、米国ではガソリンからバイオエタノールへの転換
が進む。10年後の生産量は2〜3倍に伸び、原料のトウモロコシの需要も2〜3倍の約1億1000万トン
に拡大する見込みだ。
日本が輸入する飼料用トウモロコシのほぼ全量は米国産。値上げの影響は大きく、牛乳にも波及し始めて
いる。農水省の調べでは、06年度の牛乳1リットルの小売価格は全国平均で206円。大手の明治乳業や
森永乳業は来春から、希望小売価格を30年ぶりに値上げする方針だ。来年度から生乳の価格(乳価)が
上がるからだ。
乳価は、九州生乳販売農業協同組合連合会(九州生乳連)など指定された全国の10生産者団体と乳業
メーカーがそれぞれ交渉して価格を決める。
来年度分は、飲用生乳の生産者団体では最大手の関東生乳販売農業協同組合連合会と明治、森永、
日本ミルクコミュニティ(MC)が、乳価の約3%引き上げを10日に決定。九州なども同様の引き上げを
合意した。
だが、九州生乳連は「生産費の上昇分にはまだまだ見合わない。今後の交渉でさらに乳価の引き上げを
求め、引き続き消費者にも理解を求めていきたい」と話す。
九州農政局によると、このところの飼料や燃料の価格高騰により、生産コストは3割ぐらい上昇したとみら
れるという。
豚と肉用牛の飼育頭数がそれぞれ全国1、2位の鹿児島県。県畜産課は「配合飼料の価格上昇に対応
する基金で、今はまだ負担増の手出し分は軽減されているが、価格が高止まりすれば基金からの補填
(ほてん)もなくなる。現状でもいっぱいいっぱいなので、このままでは見切りをつける高齢農家が増え
ないか」と心配する。
県は自前で牧草を育てたり、飼料としての焼酎カスの利用を増やしたりする取り組みを進めるとしている。
アサヒ.コム
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