今年10〜11月に大量の牛乳が神奈川県などで回収・廃棄された。牛が家畜伝染病のヨーネ病に感染した疑いが
あったためだが、最終結果は「感染なし」だった。
ヨーネ病は牛がかかりやすい病気だが、人体に感染例はない。
回収は食品衛生法に基づいた措置だが、「食品として安全なのに廃棄するのはどうか」と疑問の声が出ている。
【小島正美】
神奈川県は10月26日、県内の乳牛1頭がヨーネ病の疑いがあると発表した。
家畜がヨーネ菌に感染し発病すると、下痢を起こし、乳量が減る。
1回目の簡易抗体検査(エライザ法)で感染の疑いがある(疑似陽性)とされた。
厚生労働省監視安全課によると、回収の根拠は、疑似陽性が分かった段階で牛の乳などを使った製品の販売を禁止する
ことを定めた食品衛生法9条。血液を採取した検査日(今回は10月22日)以降に出荷された乳が回収対象となった。
感染が疑われた牛の乳を原料に使っていた乳業メーカー「日本ミルクコミュニティ」(東京)は「加熱殺菌されており、
健康への影響はないが、安心を最優先して回収します」とのおわび広告を出して、
首都圏を中心に200ミリリットル〜1リットルの牛乳約62万本の製品を回収し始めた。
感染が疑われた牛は1頭でも、多くの牛から集めた乳が混ぜられて製品化されるため、回収対象は大きく広がる。
ところが、11月5日、同県は正式な2回目の検査で「感染はなかった」と発表。
すでに回収された1リットルパックなど約30万本は焼却処分された。同社の損害は1億円以上と推定されている。
農林水産省によると、検査対象となる年間50万〜60万頭のうち、ヨーネ病の感染牛は昨年約1180頭見つかった。
1日3頭程度見つかる計算で、病気にかかる割合が高い。
これまでは、疑似陽性と判明した時点で酪農生産者が搾乳と出荷を止めただけだったが、厚労省が今年10月、
「回収は検査日までさかのぼる」との見解を初めて示した。
焼却処分された約30万本の量を約30万リットルと仮定し、年間の感染牛の発生数をかけると、約35万キロリットルで、
このままでは年間牛乳生産量(06年約370万キロリットル)の1割弱に相当する廃棄が予想される。
家畜伝染病を所管する農水省動物衛生課は「回収を検査日までさかのぼれば廃棄量が増え、日本では牛乳が食卓に
上らなくなる恐れがある。
こうした例は欧米ではない」とヨーネ病を回収対象から外すよう求めている。
これに対し、厚労省監視安全課は「食品衛生法の条文がある限り、疑似陽性でも回収せざるを得ない」と話す。
この問題は10月末の食品安全委員会でも取り上げられた。獣医師の見上彪委員長は個人的な意見としたうえで、
「疑似扱いでの回収・廃棄はゼロリスクを求めるもので、もっと科学的な判断を重視すべきだ」と訴えた。
疑問の声は消費者団体にもある。和田正江・主婦連参与は「安全なのに回収・廃棄はおかしいとの声は多い」と話し、
論議を深める必要性を指摘している。
毎日新聞 2007年11月24日 2時30分
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20071124k0000m040137000c.html