●「私有地を不法占有」勝訴の奈良市
奈良市が「市有地を不法占有している」として住民に立ち退きや損害賠償を求めた民事訴訟で、
88年に全面勝訴したにもかかわらず、判決確定後19年間も事実上放置していたことが分かった。
市はようやく本格的に対応策の検討を始め、「住民に退去を求める」としているが、
住民側は「今さら出て行けと言われても」と難色を示している。(藤田さつき)
市などによると、問題の土地は市中心部の一角にある学校グラウンド用地計約845平方メートル。
急傾斜地のへりにあったため整備から外された後、50〜70年代に住民の使用が始まったという。
市は85年、家を建てたり、建設資材置き場を作ったりした住民4人を相手取って提訴。
大阪高裁で88年9月、住民側に建物を取り壊して土地を市に明け渡し、損害賠償金として明け渡し
完了まで月2553〜1万4312円を支払うよう命じた判決が出て、確定した。
だがその後、市は何度か自主的な退去を求めたものの、住民側が応じず平行線が続いた。
この間、「事実上土地を使っている」と固定資産税の課税は続ける一方、強制執行には踏み切らず、
損害賠償金の支払いも受けずに、担当の管財課の懸案として代々引き継いできたという。
市の現担当者は「当時の担当者がおらず、なぜここまで放置したのか詳しい経緯は分からない」と困惑気味。
だが市幹部の一人は「急傾斜地で、空いても使う計画は特にない土地。
円満に退去してもらおうと強制執行まで至らなかった。先送り主義と言われたらそうかもしれない」と明かす。
今も住宅と建設資材置き場、事務所として使用が続いている。
民法では、判決で確定した債権が消滅する時効を10年と定めており、市はすでに損害賠償の請求権を喪失。
また同法上は、他人のものと知りながら20年間住み続けると、時効で所有権を取得する場合がある。
起算地点を判決確定時とすれば、「取得時効」まであと1年足らずだ。
市は「このままでは市民の理解が得られない」と10月末、住民に退去の要請を始めた。
年度内には土地をフェンスで囲うなど“強硬策”に出る構えだ。
これに対し、住民男性は「判決直後だったらまだしも、固定資産税も払っているし、市も認めたと思っていた。
今さら他に行く所もない」と話している。
大阪の市民オンブズマンとして活動して行政訴訟を多く手がける辻公雄弁護士の話
市が司法の判断まで求めたのに、勝訴判決から約20年間も放置するとは驚く。
行政の怠慢そのものだ。長年占有が続けば、その間に生活基盤は定着してしまう。
今となって退去を求めるのは無理も出るだろう。退去させる場合、住民が生活の場を確保できるよう支援すべきだ。
朝日新聞
http://mytown.asahi.com/nara/news.php?k_id=30000000711210003