作家深田久弥氏が選定した「日本百名山」の一つ、武尊山(ほたかやま)(2158メートル)で、片品村の
武尊牧場からの登山道など利用者が多いコースでここ数年、ぬかるみや道幅の拡大などが目立っている。
なだらかなコースで登山者が他のコースに比べて集中するというだけでなく、その山域が百名山の中で
唯一、国立・国定公園や県立公園などに指定されていないため、補修が十分にされていないという事情がある。(宮沢輝夫)
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「10年ほど前に登った時と比べ、登山道がぬかるんでいて歩きにくくなっている」との上司からの指摘を受け、
10月末、みなかみ町の奥利根水源の森から武尊山の尾根を目指した。
すっかり葉を落としたブナの森を抜けると針葉樹林帯となり、ほどなく牧場からの登山道と合流する。
ここまでは登山者も少ないせいか、ぬかるみもほとんどなかったが、尾根上の登山道はというと、随所に
ぬかるみがあり、土砂も流失してえぐられた場所が確かに目立つ。歩きにくいのを登山者が避けるせいか、
道幅も2〜3メートル近くまで広がっている場所すらあった。
「特にこの3〜4年は、百名山登山をしている九州や関西の登山者が増え、登山道の状態が悪くなって
いるのは事実。至仏山や谷川岳に比べて、管理の面などで行政の関与が少なく、置いてきぼりの感じがする」
小学生のころから武尊山に登り、現在、みなかみ町で山岳ガイドを務めるロッジ経営者(49)はこう語った。
武尊山は、片品村のほかにも、みなかみ町、川場村にそれぞれ入山口があり、毎年、各町村で開
く山開き前後に、各入山口で登山道周辺の草刈りを行っている。しかし、いずれの自治体も「登山道
の管理者ではない」と明言する。
同じように登山道や植生の問題を抱える尾瀬国立公園の至仏山(2228メートル)の場合、環境省
、県、土地所有者の東京電力などが登山道の整備を担い、尾瀬保護財団も管理にかかわっている
。武尊山の場合は、自然公園法上の国立・国定、都道府県立の公園でなく、赤城山のように県条例
による公園でもないため、登山道の管理の主体がはっきりせず、土地所有者である林野庁・利根
沼田森林管理署も「登山道として利用はされているが、(林野庁は)管理者でない」との立場だ。そうした中、登山道の状態が悪いままになっている。
管理が不十分なのは登山道だけではない。入山口までの道路も同様だ。国、県の補助を受けて
片品村が武尊牧場入山口近くに整備した東俣駐車場は、そこに至る村道の落石のために2シーズン続けて利用できないでいる。
同駐車場は、都市と農村の交流促進を目的に1996年、約7500万円をかけ、73台の駐車スペ
ースと公衆トイレ付きのレストハウスが整備された。しかし、06年6月、そこに至る村道でのり面崩
落による落石が発見され、通行できなくなった。せっかくの施設が活用されないままになっている
訳だが、「復旧にいくら必要かを調べるための予算は計上したが、復旧そのものの見通しは立っていない」(片品村農林建設課)という。
豊かなブナ林や優れた景観を持つ武尊山は、3町村だけでなく、本県全体の貴重な観光資源で
もある。尾瀬や谷川岳だけが山ではないし、小さな自治体には財政面で限界もある。保護や管理
の面で県がもっと主体的にかかわる必要があるのではないか。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news001.htm