東京地検特捜部は17日、特別背任容疑で大手コンサルタント会社「パシフィックコンサルタンツ
インターナショナル」(PCI)を捜索した。これにより、政府が中国で進めている旧日本軍の
「遺棄化学兵器処理事業」の闇の一端が浮き彫りになった。この事業は日本国民の巨額の
血税が注ぎ込まれている。いまこそ政府には事業全体の検証責任が問われる。(高木桂一)
PCI摘発について町村信孝官房長官は17日の記者会見で「捜査中のことはコメントしない」
と言葉を濁した。
この事業は決定まで終始、中国ペースで進められた。
中国は昭和62年6月のジュネーブ軍縮会議で遺棄化学兵器に関する遺棄国の責任に
初めて言及した。化学兵器禁止条約の審議過程では遺棄化学兵器に関する条項は
なかったが、「中国はいかに日本から資金を絞りとるかという戦略で条約に参加してきた。
戦略なき日本は中国の要求を丸のみにしてきただけだ」と軍縮会議に出席した政府
関係者は振り返る。
中国は平成2年4月、化学兵器問題解決を当時の海部内閣に要請、4年4月には
「遺棄化学弾の廃棄責任は日本にある」と表明した。これを受け日本は5年1月に
化学兵器禁止条約に署名、7年9月に批准した。
批准は、自社連立政権の村山富市首相、河野洋平外相のときだ。
日本は昭和20年8月、「完全な武装解除」を条件としたポツダム宣言を受諾、降伏した。
敗戦によって満州を含む中国大陸の日本軍すべての武器や施設、財産はソ連軍、
中国軍に没収され、所有権は両軍に渡っていた。
だが、日本は旧日本軍の化学兵器を廃棄処理費を全額負担すると応じてしまった。
「いつのまにか、言われなき賠償金が中国にタレ流される枠組みができていた」(民主党
中堅議員)のである。
外務省幹部は国会で「化学兵器の残置が中国の同意のもとに行われたことを裏付ける
資料はない。中国側がそう言っている」との答弁を繰り返してきた。
中国は当初、旧日本軍が遺棄したとする化学兵器の総数を吉林省ハルバ嶺を中心に
200万発と主張したが、その後、30万〜40万発に下方修正した。中国側の言い分に
根拠がない現実を物語る。
政府が11年度から18年度までにつぎ込んだ遺棄化学兵器処理事業費は約471
億円で、今年度も約212億円を計上している。だが政府は事業費の詳細公表を渋り
続けている。今後、発掘回収施設と無害化処理施設の建設費は2000億円を超え
「日本の持ち出しは総額1兆円規模」(専門家)との試算もある。
中国問題に詳しい元外交官は、「中国にとって化学兵器処理事業は政府開発援助
(ODA)に代わって日本からカネを引き出すカードになる」と言い切る。軍事専門家は
「中国に流れる事業費の一部が、人民解放軍の近代化に資することにもなりかねない」
とも指摘する。「政府は事件を契機に事業を中断し、すべてをガラス張りにすべきだ」と
いう自民党議員の意見は暴論ではない。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/071017/crm0710172107050-n1.htm