★イラク情勢 乏しかった米軍増派の成果(9月17日付・読売社説)
イラク駐留米軍の撤収計画は小規模にとどまった。
安定に程遠いイラクの厳しい現実を改めて示すものだ。
ブッシュ米大統領は、全米テレビ演説で、年初からの米軍増派作戦で
イラクの治安は改善されたとし、一部部隊を撤収させると発表した。
クリスマスまでに1個戦闘旅団など5700人が、さらに来年7月までに
4個戦闘旅団が帰還するという。
削減兵力数は、増派分3万人より少ない規模にとどまる見通しだ。
大統領は、成果があがれば、もっと多くの米軍部隊が帰還できるとした。
来夏以降の兵力規模は、駐留米軍司令官の次回の情勢報告を受け、
来年3月に判断するという。
混迷が長びくイラクで、2003年の開戦以来、米軍の死者数は3700人を超える。
米世論調査では、派遣兵力の削減を求める声は58%に上る。
大統領が初めて兵力削減の方針を発表したのは、こうした国内世論への配慮がある。
民主党は、「見せかけの削減」と批判し、早期撤退を主張している。
だが、現状では米軍の早期撤退がイラク情勢の好転につながる保証はない。
むしろ、治安の悪化を招く恐れがある。
大統領は、首都バグダッドの西にあるアンバル県の事例を、増派作戦の成功例として説明した。
ここは、国際テロ組織アル・カーイダ勢力の拠点と化していたが、
米軍は地元のイスラム教スンニ派武装勢力と共闘して治安を改善した。
大統領が今月初め、電撃的に訪れたのもアンバルだ。安全になったことをアピールする
狙いがあったのだろう。
だが、こうした成果がさらに広がり、長続きするかどうかは不透明だ。
アンバルでスンニ派が米軍に協力したのは、資金と武器ほしさからという見方もある。
米軍撤収後に、シーア派主導のイラク軍と協力できるか、不安は残る。テロ勢力もなお跋扈している。
かつては平穏だった南部バスラで、石油利権をめぐるシーア派武装勢力間の主導権争いが
激化していることも、イラク安定化に逆行する不安材料だ。
何より問題なのは、宗派・民族間の政治和解がほとんど進んでいない点だ。
石油収入を公平に分配する「石油法」や旧バース党員の公務員復職を可能にする立法など、
重要法案は議会で審議もされていない。マリキ首相の指導力には、疑問符が付いたままだ。
イラク情勢の悪化は、中東全体や世界の不安定化につながる。イラク安定化に大きな責任を負う
米国は、中東和平の促進など外交努力も倍加すべきだ。国際社会も復興支援を続ける必要がある。
讀賣新聞
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070916ig91.htm