鹿児島県警警部、対立候補と情報交換 県議選無罪事件
03年の鹿児島県議選に立候補した中山信一さん(61)ら12人全員の無罪が確定した
「公職選挙法違反事件」で、捜査を指揮していた県警の警部(57)が、「主犯」とされた中山さんと
同じ選挙区の県議との間で、捜査情報などをやりとりしていた疑いが強いことが1日、分かった。
県警の内部文書や関係者の証言などから浮上した。警部は「コメントする立場にない」と言い、
県議は「覚えていない」と話している。
この事件では、前回の統一地方選の際、中山さん=事件後、辞職。今年4月の統一選で返り
咲き=らが同県志布志市の民家で、計4回の「買収会合」を開き、11人と総額191万円の現金を
授受したとして逮捕、起訴された。
しかし、鹿児島地裁は今年2月23日の判決で、買収会合が架空だった可能性に踏み込みながら、
中山さんら被告全員に無罪を言い渡し、確定した。
警部と県議との関係については、05年1月の公判に弁護側の求めで出廷した警部自らが、03年
4月13日の投票日の県議との面会を認めたうえで「一般情勢的なことで聞きに行った」と釈明
していた。
ところが、朝日新聞が入手した県警の内部文書によると、警部は04年10月に開かれた地検との
協議の場では、「県議に接触した理由については、被買収者を出すための手段であった」などと
語っていた。
捜査関係者によると、県警が中山陣営にかけた最初の容疑は「ビールを使った買収」だった。
この容疑で、投票日の翌日から二つの建設業者を取り調べる手はずで、「捜査員の割当表も
できていた」という。
一方、容疑がかけられた業者によると、県議から投票日の午前中に、「お前と○○は中山陣営
からビールをもらっただろう」などと電話があった。心配になった2業者がそろって出向くと、県議は
「お前たちは警察から取り調べられることになる」と明言。これに対し、県議の支持者だった2業者は
ビールの授受を強く否定。結局、調べはなかったという。
県警はその翌日、同じ「ビールによる被買収容疑」で、新たに別の4業者を調べ始めた。この
捜査も、県議と接触した警部の情報などに基づいて行われたという。
捜査関係者の一人は「捜査の公平さを考えれば、捜査幹部が投票日に被疑者と対立している
県議に会いに行くことも、そこからの情報ですぐに動き出すことも全くあり得ないことだ」と言って
いる。さらに、「2業者が強く否定したことを知った警部は慌てて県議に相談に行った」という。
「ビールによる買収容疑」など、県警が中山陣営にかけた買収容疑はいずれも失敗。最後に
立件したのが、無罪となった「現金による買収会合事件」だった。
03年の県議選ではこの県議と中山さんは旧曽於郡区(定数3)でともに当選した。
関係者によると、警部の親族の仲人を県議が務めるなど、2人の親しさは県警内でも知られて
いた。捜査幹部の一人は「無投票にしたかった県議と、県警本部に戻ったばかりで早く実績を
残したかった警部の思惑が重なった捜査だった」と証言している。
取材に対し、警部は「コメントする立場にない」、県議は「年寄りだから4年前のことは覚えて
いない。(業者への電話は)わからない」と言っている。
http://www.asahi.com/national/update/0602/SEB200706010010.html