■肝移植手術一本化で群馬大 専任教授を公募
医療事故をきっかけに、昨年6月から生体肝移植手術を中断していた群馬大医学部付属病院(前橋市)が、
二つの外科で別々に行ってきた肝移植を一本化し、移植外科の専任教授を全国公募する。
肝移植には高度な技術が必要だ。治療チームの総力を結集させなければならない。同じ施設で別々の
チームが行うことは国内外でほとんど例がなかった。それが長く続いてきた背景には、診療科間の風通しが
悪く、責任と権限の所在もあいまいな大学病院特有の組織運営があった。
事故がおきたのは05年11月。第一外科で手術を受けた提供者(ドナー)が下半身まひとなった。病院は
検証委員会をつくり、過去に行われた第一外科35人、第二外科16人の肝移植手術を調べた。患者の
院内死亡や輸血量、ドナーの出血量や合併症などを比べると、第一外科の成績が悪い。検証委は同科の
技術の未熟さを指摘した。
病院としての第一例は99年10月に第二外科が行った。心臓血管外科が専門の森下靖雄・現病院長が
鹿児島大助教授から91年に教授(診療科長)になった後に移植の準備を開始。生体肝移植の拠点の
京都大などに医師を送り、研修した。
一方の第一外科は、消化器外科が専門の桑野博行教授が98年に九州大助教授から就任。肝移植の
トレーニングを受けた医師を九州大から迎えるなどして、00年9月から始めた。01年から院長職にある
森下氏は「異例だとは思わなかった。互いに切磋琢磨(せっ・さ・たく・ま)することが患者さんのためになる
と考えた」と振り返る。
病院内には異論もあった。移植の可否を検討する倫理審査委員会で内科医が、移植対象となる患者の
選定基準が両科で異なることを指摘。「一本化してくれた方が患者を紹介しやすい」と述べたことがあった。
術中の患者の全身管理を担う麻酔科は両科の差を認識していた。だが、統合に向けて行動を起こすことはなかった。
事故の再発防止には、組織の問題点の究明が必須だ。なのに検証委員17人のうち16人は内部の
病院関係者が占めた。唯一の外部委員が二つの外科で肝移植を行う不自然さを指摘したが、わずか
5ページの報告書は両科の治療成績を比較しただけで、不自然さの背景まで掘り下げることはなかった。
森下院長は「両科の良さを融合し、完成された群馬大方式となるよう努力している」と言う。しかし、真の
「病巣」を取り除かないまま、公募教授を迎えたとしても、看板を掛け替えただけに終わりかねない。
(編集委員・出河雅彦)
[朝日/群馬]
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