◇いなり寿司の泉屋星野が閉店へ 100年の歴史、惜しむ声も
明治四十年の創業から百年。豆腐、いなりずし、納豆製造販売のしにせとして愛されてきた
上越市大町五の「泉屋星野」が三月末日をもって閉店・廃業する。
軍都として栄えた高田の名残を伝えるしにせだが、後継者がいないなどの事情から、
一世紀にわたる歴史に幕を下ろす。
星野剛社長(68)が、二人三脚で店を切り盛りしてきた妻・希代子さんと「悩みに悩んだ」末の
答だった。
多くの常連、なじみ客からは閉店を惜しむ声とともに「よく頑張ってきたね」とねぎらいを受け、
星野さん夫婦を感激させている。
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明治四十年、初代の星野佐太郎氏が豆腐店として創業した。時まさに、陸軍第十三師団の
高田入城・入営にわいていた。急ピッチで建設が進む兵舎建設に携わる三千人分の「食いぶち」、
師団鵄御用商人として誕生した多くの豆腐店と同時に開業したのが始まり。
その後、二代目となる佐玄士氏の娘・希代子さんと結婚し店を任された剛さんが、豆腐、納豆と
ならぶ商品として売り出したのが看板商品となるいなりずし。特に宣伝もせずクチコミで広がった
評判は、三十五年たった今でも「いなりずしなら泉屋」と多くのファンを持つ。
「味の秘密は油揚げ。特に揚げの皮の厚さが命。見てくれよりも食べておいしいすしにこだわった」
と星野社長。売り方にもこだわった。
三千個を上限に、もうけるための妥協はせず、時に納入先とけんかもしながら愚直な商道(商い)に
徹してきた結果、「いいお客に恵まれた」。
店の存続は、事業譲渡なども含め三人の娘とも話し合い模索してきたが実現までに至らず、
先月最終決断を下した。「幕引きは経営者最後の大決断。お客さまからはありがたいお言葉を
いただくが、私としてはやり遂げた感もある」と剛さん。希代子さんも「本当に悩みました。
お客さまから何とか続けられないのかと言われますが、そのすぐあとに、よく頑張ったものねと
言われ感激しています」。
「三月いっぱい商売します。二十人の従業員も精いっぱい頑張ってくれている。ぜひご来店
いただければ幸い」と湿っぽさはない。三月末日、明治の気骨を持った名物店の「のれん」が
下ろされる。
(上越タイムス)
JVC
http://www.joetsu.ne.jp/times_news/index.php?kiji=629