70代は円朝に挑む10年
落語家の桂歌丸が、近代落語の祖とされる三遊亭円朝の怪談「牡丹燈籠(ぼたんどうろう)」(全4話)
のDVDとCD(テイチクエンタテインメント)を出した。
「70代の10年間を、円朝作品への挑戦と位置付けたい」と強い意欲をみせている。(塩崎淳一郎)
旗本の娘・お露は、浪人の萩原新三郎と恋に落ちたが、会うことがかなわず、焦がれ死にする。
お露は幽霊となり、毎夜、燈籠を提げて新三郎の元にゲタの音を響かせて通う。
間もなく、幽霊と知った新三郎は死霊よけを講じる。これが発端となり、不義密通や金を巡る悪事が交錯する。
「円朝全集を読み、三遊亭円生や林家彦六の録音を聴いて噺(はなし)の構成を考え、自分なりに切ったり
加えたりしてノートにまとめた。そして、実際にしゃべってのけいこ。とても苦しい作業だったが、
完成の楽しみを思って取り組んだ」と歌丸。テレビ出演や独演会などの合間を縫って、コツコツと地道な仕事を続けた。
「牡丹燈籠」への挑戦は、歌丸が全4話に分けたうちの一つ「栗橋宿」を、1994年にテレビで口演したことに始まる。
今回のDVDは、昨年7月から10月まで、横浜にぎわい座で口演したものを収めた。
「客の反応もよく、5月に腰を手術したばかりだったが、しゃべっている最中は痛みを忘れた」と振り返る。
「牡丹燈籠」のほかにも「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」など、円朝作品に積極的に取り組む。
それは、これらの作品を後輩に残したいからだ。「先人が残した財産が埋もれるのはもったいない。落語界の財産なのだから、
誰かが今の時代を反映した円朝作品を引き継ぐ必要がある。後輩がこれを土台にしてくれたら」という願いがある。
円朝は現代に生きているというのが持論だ。
「殺しやいじめなど、円朝作品には、陰惨で残酷な一面がある。今の日本と噺の世界はそっくり。
楽しく笑える落語も大切だが、円朝のような、人生の中で少し考えさせられる作品も大事にしたい」と話す。
70歳。昨年5月から演芸番組「笑点」の司会を務め、人気は全国区。
しかし、「大喜利の歌丸で終わりたくない」と語気を強める。
「本職はあくまで落語家。目を閉じる日まで苦しみ、噺を演じていたい。『塩原多助一代記』など、
やりたい円朝作品はまだまだたくさんある」
穏やかな笑顔から、芸にかける意気込みが真っすぐに伝わってきた。
来月20日には、読売GINZA落語会で、円朝作とされる「双蝶々(ふたつちょうちょう)」を口演する。
ニュースソース
ttp://www.yomiuri.co.jp/entertainment/stage/trad/20070129et02.htm