◇【マグロ戦争 限りある天然資源】はえ縄VS巻き網
江戸時代に千葉・房総半島で始まったとされる「はえ縄漁」は、海中の深部を回遊するクロマグロや
メバチマフロなどの大型魚を狙う日本伝統の漁法だ。取った魚の身が崩れにくいため刺し身用の
マグロの捕獲に適している。
これに対し、「巻き網漁」は海中の浅いところを回遊する比較的小さなキハダマグロやカツオを狙う。
こちらは主に缶詰用として出荷される。
漁獲規制をめぐる国際会議では、この2つの漁法がしばしば対立する。
エサにマグロが食らいつくのを待つはえ縄漁。網で一気にすくい上げる一網打尽の巻き網漁。
はえ縄が1日1トンも取れないのに対し、巻き網の漁獲量は多いときには1日200トンにも上る。
狙うマグロの種類、大きさ、用途が違う2つの漁法。はえ縄側が「巻き網は親になる前の魚を取るので、
資源は先細りになる」と批判すれば、巻き網側は「はえ縄は親の魚を取るので、(ターゲットの)子供が
生まれない」といった感じで、議論はかみ合わない。
「刺し身」対「缶詰」の争いは熾烈(しれつ)さを増している。
「刺し身で使われるクロマグロやメバチマグロも、魚体が小さく若いうちは浅いところを泳ぐ。
巻き網漁は集魚装置(FADs)で魚を集めて一気に取るので、クロマグロなども取れてしまう。
マグロは成長が早いので大きくしてから取った方が得」
大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の元事務局次長、三宅眞氏は、はえ縄側が巻き網漁の
規制強化を求める理由をこう説明する。
巻き網側はそもそも若い魚は自然減少率が高いという科学的データを基に、「若いマグロを大量に
取っても資源に与える影響は少ない」と反論。巻き網漁による漁獲量が近年急増していることに
ついても、「刺し身と缶詰で市場規模が違うことが原因」と説明する。
だが、漁船数を国際的に制限するなどしているはえ縄漁に対し、巻き網漁の漁船は途上国などで
急増中だ。世界全体では900隻以上にのぼる。
資源維持のため、隻数を国として35隻に厳しく制限している日本の巻き網漁従事者からは
「外国の船にも何らかの規制が必要だ。彼らは資源のことを真剣に考えていない」
(海外まき網漁業協会)との批判が上がっている。
日本の割当量が年間3万トンある東部太平洋のメバチマグロ。スーパーなどに並ぶ庶民的な価格の
刺し身に多く使われる魚種だが、日本は一昨年、1万5000トンほどしか取っていない。
資源の悪化に加え、燃料代が高騰し「採算が合わないので操業しない漁業者が増えた」(水産庁遠洋課)
からだ。
「この2年で燃料費が2倍になり、コストに占める割合も30%を超えた。資源が減っているのは確実で、
日本のはえ縄漁はほとんど採算に合わなくなっている」。日本かつお・まぐろ漁業協同組合の
石川賢廣組合長によると、同組合に加盟していた漁業者の船は「ここ2、3年で数十隻は廃業した」という。
また、廃業した日本の漁業者の漁業権を外国資本が購入し、名義人だけ日本人にして日本船として
操業するケースも増えている。「日本の漁業枠を利用するのが狙いだが、そういう外国資本とはコストで
対抗できない」(石川組合長)
世界のマグロ消費量は、ここ20年で一気に倍増した。健康食ブームに乗り、刺し身市場も欧米や
中国にまで広がっている。魚価低迷にあえぐはえ縄漁にとっては、「むしろ市場の拡大が魚価が上がる好機」
と見る向きもあるが、マグロはあくまで限りある天然資源だ。2つの漁法、市場のバランスをどうとるか。
資源管理をめぐる国際会議は、そんな一面も持っている。(加田智之)
産経新聞
http://www.sankei.co.jp/seikatsu/shoku/070120/shk070120001.htm