★猪突“妄信”、走るのはパニック時だけ 猪突猛“侵”、害獣…おいしく駆除
猪突(ちょとつ)猛進−−。今年の干支(えと)・猪(いのしし)(亥(い))の形容だが、実際に猪が走ることはめったにない。
年賀状では版画やイラストでさまざまな姿がユーモラスに描かれているが、間違いも多い。一方、今冬は各地で猪に
よる被害が続いている。誤解だらけの猪の実像は?【石塚孝志、坂巻士朗】
◇キバは後ろ向き
まずは新年に届いた年賀状を見てほしい。
猪に詳しい茨城県つくば市の中央農業総合研究センター上席研究員、仲谷淳さん(51)は「世間でイメージされている
猪と実物にはかなり違いがあります」と指摘する。キバの形状がその一つ。猪は冬眠中のカエルなども食べる雑食性
だが、基本は草食だ。勇ましくキバが前を向いているのは間違いで、後ろ向きが正しい。またキバが長いのはオスで、
キバの立派な猪の乳を子が吸っているような図柄も誤りだ。
行動も実情とは異なる。猛スピードで突進するのは人や犬に襲われ、パニックになって逃げる時ぐらい。「人間が猪を
見るのは主に狩猟の時だから、そんなイメージが定着したのでは」という。
◇広がる被害
猪は普段は森や里山のやぶなどにすむ。胃の形は牛やシカなどの反すう動物とは異なり、人間と同じ単純形。好物は
コメなどの作物で人との攻防は弥生時代にさかのぼる。だが深刻になったのは1970年代からだ。
農林水産省の統計によると国内の耕地面積は1961年のピーク時、約608万ヘクタールだったが、06年は約467万
ヘクタール。農地拡大でいったん山に押しやられた猪だが、放棄農地が増えたためもり返してきた。全国の鳥獣被害額
約187億円(05年度)のうち猪は約49億円で断トツだ。狩猟や駆除などで捕獲されるのは例年約25万頭近く(04年度、
イノブタ含む)にも達するという。
特にこの冬は被害が目立つ。元日には愛媛県八幡浜市の住宅街で男女4人が猪に体当たりされて軽いけがをした。
4日も同県宇和島市内の高校に出没した。群馬県渋川市子持地区では特産であるコンニャクが食い荒らされ、昨年11月
中旬までの5カ月間で35頭(前年同期3頭)が捕獲された。市子持総合支所は「これほどの被害は初めて。
山林の下草の手入れが届かず、畑に近寄りやすくなっているのでは」という。静岡県熱海市でも昨年3月から10月末まで
に112頭(前年43頭)が駆除された。出荷前のミカンが木ごと倒され、食われたケースもあった。
◇共生のあり方
農村にとって猪との共生は重要な課題だ。生態解明や被害を防ぐ技術などの研究も進む。助走なしに1・2メートルの
ジャンプ力があるため、効果的な防護さくや、山すそに家を建てて猪が田に行けないような集落づくりの研究も始まった。
野生のため寄生虫や病気などの課題も多いが、猪肉を商品化して町おこしに取り組む所もある。「ぼたん鍋」の発祥地
とされる兵庫県篠山市では例年隣の丹波市と合わせて600〜1000頭が捕獲される。鍋を売り物にした料理屋や旅館
をはじめ、100グラムを800円ほどで売るシシ肉専門店もあり、「冬の味覚」として定着してきた。
篠山市商工会の竹見利彦さん(28)は「シシ肉は牛や豚に比べるとやや硬くて独特のにおいがあるが、みそで煮込む
ことで軟らかくなる」という。
(毎日新聞 2007年1月5日)
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/news/20070105dde001040045000c.html