退職1か月後に自殺の21歳、労災認定訴訟が4日判決
13年前、兵庫県内の無認可保育所の保母だった女性が、退職1か月後に自宅で首をつって亡く
なった。保母の資格を取ったばかりだったが、就職してわずか3か月で主任を命じられるなど心身
の負担が重なり、うつ状態となって職場を去った直後の悲劇だった。
退職後の自殺が過労によるものとして労災認定された例は厚生労働省もつかんでいない。女性
の父が国に労災認定を求めた行政訴訟の判決は4日、東京地裁で言い渡される。
「仕事以外に、娘が命を絶った原因はない。なぜ、こんなに時間がかかるのでしょう」。神戸市の経
営コンサルタント・岡村昭さん(70)は、最愛の長女牧子さん(当時21歳)を思い、声を絞り出した。
牧子さんは、1992年9月に保母資格を取り、93年1月から、同県加古川市の保育所に勤務。月
曜から土曜は12時間以上働き、日曜の出勤も多かった。配属された2歳児クラス(18人)には調理
師がおらず、保母2人で給食調理も担当。同年春には別のクラスの保母6人が全員退職することに
なり、4月からいきなり、5人の保母をまとめる主任を任されることになった。3月末、帰宅した牧子さ
んは「人生がめちゃくちゃになった」と泣き崩れて放心状態となり、緊急入院。精神的ストレスによる
心身症と診断され、退職した。
4月下旬、保育所へ離職票を取りに行った際に復帰を求められた牧子さんは、ふさぎ込んだ末、
その2日後、命を絶った。
実は、牧子さんの死を巡っては、民事訴訟では〈過労自殺〉が認められている。両親は娘の死から
丸1年たった94年4月に保育所に損害賠償を求めて提訴し、98年の大阪高裁判決で業務と自殺の
因果関係が認められ、確定した。
ところが、93年12月に申請した労災は認められず、再審査を求めた労働保険審査会は昨年、業
務のストレスが精神障害の有力な原因と認めたものの、退職後、自殺した時には治癒していたとして
棄却。このため、昭さんは労災認定を求めて行政訴訟に踏み切った。
過労死問題に詳しい岩城穣弁護士は「仕事を辞めればうつがすぐに治るとは思えず、まじめな人ほ
ど退職に対する罪悪感も大きい。今回のケースは明らかに労災認定すべきだし、そもそも国の判断
に時間がかかり過ぎている」と指摘する。
昭さんは「働く者の気持ちを受け止め、心身の危険にもっと敏感な社会になってほしい。娘の死を無
駄にしないためにも、ぜひ勝訴したい」と話している。
(2006年9月2日3時6分 読売新聞)
ソース
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060902icw1.htm