生活保護費を市町村の担当職員が着服する事件が全国で続発して
いる。朝日新聞が調べたところ、03年から3年余りで、保護費の着服・
詐取などで懲戒免職処分となった職員は少なくとも20人を超えた。公
的統計はないが、保護受給者の支援団体は「事件はここ数年で急増
している」と指摘する。厚生労働省は「チェック体制の強化」を再三通知
しているが、受給者数の急増に自治体の対応が追いつかず、後手にな
りがちだ。
●受給者増、チェック後手
神奈川県厚木市で今年4月、保護費計約4150万円を架空請求して
詐取を続けていたとして、職員が懲戒免職処分になった。ケースワーカ
ーとして受給者の相談にのっていたが、00年〜今年3月までに処理し
た7780件のうち436件に不正があったという。受給者と同じ名前の印
鑑五つを用意し、引っ越しや通院などで必要になったと偽って臨時の支
給金を請求する手口だった。ほかに北海道旭川市のケースなどを含め、
この月だけで計4人が懲戒免職になっている。
京都市では7月、生活保護受給者への臨時の支給金41万円を水増し
請求したとして、元ケースワーカーが詐欺容疑で京都府警に逮捕された。
さらに、保護費など492万円を着服したとして別のケースワーカーを市
が業務上横領容疑で告発するなど、不祥事が相次ぐ。保護受給者を支
援する「全国生活保護裁判連絡会」事務局長の竹下義樹弁護士は「事
件はここ数年で急増した印象がある」と指摘する。
04年度の保護受給者は全国で142万人(人口の1.1%)。95年度の
88万人(同0.7%)から上昇を続け、被保護世帯の数も99年度の約70
万世帯から04年度は約100万世帯に増えた。
それに伴い、ケースワーカー1人あたりの被保護世帯数も、99年度に
全国平均で71.9世帯だったのが、04年度には83.6世帯に増加。03
年、保護受給者の預金約300万円を盗んだとして元ケースワーカーが
懲戒免職になった愛知県常滑市では02〜03年度、ケースワーカー1人
当たりの被保護世帯が100を超えていた。
●行政に強い不信
厚労省は03年から3年度続けて、生活保護関係全国係長会議で「ケー
スワーカーは一切現金を扱わない」「複数の職員のチェック体制を作る」こ
となどを通知した。だが、「市町村ごとに事務の運用が違うので、マニュア
ル化することができない」(同省担当者)のが実情で、大阪市は、受給者に
代わって保護費を持ち出す場合には、ケースワーカーが書類を作り、係長
以上の押印をもらうことを義務づけた。
「ケースワーカーが現金を預かりに行くときは必ず別の職員を同行させる」
(福島県相馬市)▽「過払いの保護費は現金で返還させず、翌月の保護費
から天引きする」(佐賀県唐津市)の対策例もある。だが、保護受給者の行
政への不信感は根強い。
生活保護を受けている京都市の男性(77)は「支給額の計算は複雑で、
苦情を言っても『計算上こうなります』と言われてしまえばそれ以上、追及で
きない」と語る。
オンブズマン制度の導入に乗りだした自治体もある。総務省の昨年の調査
によると、横浜市や東京都の多摩市や日野市など首都圏を中心に八つの自
治体が、福祉専門のオンブズマン制度を設けている。委員を市民から募るケ
ースが多い。
そーす
http://www.asahi.com/national/update/0818/OSK200608170153.html