国土交通省はトラック、バス、タクシーの運行会社が運転手の長時間勤務や飲酒運転を放置するといった
道路運送法などの悪質な違反に対し、直ちに営業停止命令を出せるよう関係する処分基準を今夏から強化する。
規制緩和と競争激化に伴う労働環境の悪化や事故増加に歯止めをかけるのが狙い。
現在は死亡事故を起こすか、違反を重ねないと営業停止にならない。新基準で数日から数週間までの
営業停止という「一発処分」が可能になるため、違反状態を放置しがちな経営者に意識改革を迫る効果も期待している。
現状の営業停止命令は違反に応じた点数が累積して一定水準に達した業者に出される。
ただ、国交省などの監査は人手不足もあって頻度が少なく、違反の繰り返しで営業停止になる業者は極めてまれ。
一方、死亡事故を起こすと点数が3倍になる。このため、死亡事故を受けた事後的な監査で違反がいろいろ見つかり、
営業停止になる例が大半という。「死亡事故が起きないと営業停止にならない」のが現状だ。
そこで新基準は、安全を脅かす長時間勤務や飲酒運転・速度違反などに焦点を当て、これらの問題を放置したり、
社内監督が不十分だったりした場合に、厳しい処分を出せるよう改める。業者内部や労働基準監督署の通報による
監査も組み合わせ、事故に至る前の予防的な対応を強化する考えだ。特に中小零細の業者は、
短期間の営業停止でも取引先を失う恐れがあるため、処分の影響は大きい。
処分強化の引き金は、続発するトラックなどの重大事故だ。昨年11月に滋賀県の名神高速で死者7人の
トラック追突事故が起きた。さらに今年2月、京都府の京滋バイパスで死傷者9人の多重衝突事故が起き、
車列に追突したタンクローリーの運転手が過労で居眠りしたのが原因だった。
また、運転手が仮眠で寝付きをよくしようと寝酒を飲み、酔ったままハンドルを握って事故を起こす例も多い。
4月には、兵庫県警が飲酒を黙認していた運送会社8社を家宅捜索した。
警察庁の調べでは、05年の交通事故の全体件数は95年の約1.22倍に増えたのに対し、トラック、バス、タクシーを
合わせた事故件数は約1.31倍に増えた。 国交省によると、01〜03年に高速道路で起きた事故のうち
死亡事故になった割合は、普通乗用車が0.35%なのに対し、大型トラックは4.18%だった。
一般道でも普通乗用車の0.09%に対し、大型トラックは0.79%と高かった。
国交省は90年にトラック、02年に乗り合いバス、タクシーで新規参入規制を撤廃した。
業者数はトラックが90年度の約4万社から04年度に約6万1000社、バスは98年度の約2500社から
03年度に約4000社、タクシー(個人を除く)は98年度の7000社から04年度に約8700社に増えている。
過当競争に伴う無理な運行や運転手の低賃金も問題だ。厚生労働省の調べでは、
タクシー運転手(04年、男性)の平均年収は全産業平均の6割に満たない308万円。
最低賃金を下回る例もある。平均労働時間も全産業平均より1割多い2412時間。
労働基準法に基づいて厚労省が定めた拘束時間(トラックで1カ月320時間)を超えて働く運転手や、
長時間勤務を黙認する業者も多い。
◆ソース:asahi.com
http://www.asahi.com/national/update/0507/TKY200605070169.html