安全保障上の関心は地理的に遠いと、どうしても薄れがちだ。東アジア情勢に関し、
欧州連合(EU)の認識を補うのは日本の重要な役目だ。
中国に対するEUの武器禁輸措置の解除について、小泉首相は先の日・EU首脳協議で、
改めて反対の考えを伝えた。バローゾ欧州委員長らEU側は、禁輸措置の継続は明言
しなかったが、日本の懸念は「理解」できるとした。
日本は昨年9月以来、EUとの間で、東アジアの安全保障に関する戦略的対話を重ねている。
外交当局のアジア担当者による意見交換のほか、昨年12月の協議には防衛庁も参加した。
こうした対話が、「理解」につながったのだろう。
EUの対中武器禁輸措置は、1989年の天安門事件を機に実施された。だが、フランスや
ドイツが主導し、2004年12月のEU首脳会議で、「05年前半の解除」を目指す方針が決まった。
米国や日本は「東アジアの軍事バランスが崩れる」と強く反対している。
EUが現在も禁輸を解除していないのは、日米の反対に加え、中国の最近の動向に
懸念を抱いているためだ。
昨年3月に台湾独立阻止を目的とした反国家分裂法を制定した。翌4月には中国各地で
「反日」デモが吹き荒れた。
解除に慎重な英国や北欧諸国などが巻き返し、昨年12月と今年3月のEU首脳会議では、
議論にすらならなかった。
あわや解除か、というところまで事態が進んだ禁輸解除問題は、すっかり下火になったように見える。
だが、再燃する可能性は否定できない。
仏独などが禁輸措置の解除を主張したのは、経済成長著しい中国が、高額な武器の売却先
として魅力的な「市場」と映っているからだ。
中国の働きかけも依然、活発だ。昨年9月の中国・EU首脳会議での共同声明には「EUは解禁に
向けて引き続き努力する」との文言が盛り込まれていた。
中国は、レーダーシステム、早期警戒機、精密誘導武器システムなどの先進電子機器や、その技術の
取得に強い関心を寄せていると言われる。これらの武器と技術がEUから移転するようなら、中国の
戦闘能力は飛躍的に高まると、米国も懸念している。
中国の国防費は、18年連続で2けたの伸びだ。国防費の内訳や主要装備の保有数なども
一切公表されていない。
EUも、中国を「市場」と見る前にまず、そうした現実を十分に理解すべきではないか。
そのためにも、EUとの戦略的対話を一層強化する必要がある。
ソース:読売新聞社説
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060426ig91.htm