交通事故で起きる難治性むち打ち症の「真相」とされる脳脊髄(せきずい)液減少症をめぐる問題で、
三重県の男性が加害者側を相手取った損害賠償訴訟が今年7月、津地裁伊勢支部(遠藤俊郎
裁判官)で和解していたことが分かった。加害者側は「この程度の事故で髄液が漏出することは
医学的に考えられない」とする整形外科医の意見書を基に、事故との因果関係を否定したが、
同支部が「事故が原因」と和解を勧告、加害者側が650万円の支払いに応じた。加害者側が訴訟を
経て賠償に応じたのが明らかになるのは初めて。
訴えていたのは同県伊勢市の弁護士事務所事務長、河原宏明さん(45)。
河原さんは01年11月、2トントラックに追突され、激しい頭痛や手足のしびれが続いたが、整形外科
などでは「異状なし」とされた。03年3月、ようやく脳脊髄液減少症と診断され、自分の血液注射で
髄液の漏れを止める「ブラッドパッチ療法」を受けて完治した。
ところが、加害者が加入していた三重県交通共済協同組合が「髄液漏れと事故は無関係」として
治療費を打ち切った。さらに同年7月、加害者が治療費の支払い義務がないことを確認する訴訟を
起こした。このため河原さんは残りの治療費など計862万円余の賠償を求めて提訴した。
訴訟では「追突事故で脳の脊髄液が漏れるか」が争点となった。河原さんは「事故後、体調が悪化
して約1年4カ月も治らなかったのに髄液を止める治療で完治。事故が原因なのは明らかだ」と主張。
加害者側は「事故による傷害は軽い頚部(けいぶ)挫傷。軽微な追突事故では髄液は漏れない」と
反論。医学論争にまで発展したが、遠藤裁判官は今年6月末、事故と発症との因果関係を認める
ことを前提に和解を勧告していた。【渡辺暖】
◇医師と弁護士が支え、裁判も治療も乗り越え
「40歳を過ぎ、健康と職を失うつらさを知った」。実質勝訴の和解となった被害者の河原さんが裁判を
振り返った。
河原さんは事故後、首が動かず、腕が上げられなかった。下を向くと首から腰に激痛が走った。
入院や通院を繰り返したが、検査では異状が見つからなかった。当時は治療してくれる医師が近県に
おらず、脳脊髄液減少症の診断が確定したのは、事故から1年4カ月後だった。
「どんな犠牲を払っても治そう」と決意。約15年間勤めた会社を退職し、一人で川崎市の「稲田登戸
病院」脳神経外科の鈴木伸一医師に通い続けた。計4回のブラッドパッチ治療を受け、半年後に
「完治した」と実感できたという。軽い農作業やゴルフも出来るようになり、就職活動を開始。だが、
失業の経緯を話すと「本当に体は大丈夫なのか」とただされ、どこも採用してくれなかった。
そんな姿を見ていた河原さんの代理人、樋上陽弁護士が「うちの事務長に」と誘ってくれた。
河原さんは「周囲から『気の持ちようだ』などと言われ続け、つらかった。でも、治すのをあきらめたら
終わりだと思った。医師と弁護士の熱意で裁判も乗り越えられた」と話している。
■ソース(Mainichi-MSN)
http://www.mainichi-msn.co.jp/photo/news/20051224k0000m040105000c.html