フランス政府は全土に拡大した暴動を抑えるため、各地の知事が夜間外出禁止令を
出せるようにする。8日の臨時閣議で正式決定し、必要な法的手続きをとる。本土に
外出禁止令が発動されれば、アルジェリア独立戦争(1954〜62年)当時以来の
非常事態。12日目に入った騒乱状態が沈静化しないため、「国家」を前面に早期の
事態収拾を目指す考えだ。
仏政府の方針は7日、ドビルパン首相がテレビのニュース番組に生出演して発表し
た。1955年施行の非常事態法に基づき、各県の知事(政府任命)が必要と判断す
れば非常事態を宣言し、外出禁止令を発動できるようにする。官報での公示を経て、
9日午前にも適用される。
首相は「この重大事態を受け、大統領は55年法の活用を決断した。秩序回復と住
民保護に有効とみれば、知事は内相の権威の下に夜間外出禁止令を出せる」と表明し
た。外出を禁じる地域や時間帯は知事が決める。
また、警察官や憲兵の予備役1500人を大都市郊外の騒乱地域に投入し、現在8
000人の警備態勢を増強する。
首相は軍の出動について「その段階ではない」と否定。各地で放火を繰り返してい
る若者に対しては「両親の責任」を指摘する一方、イスラム組織の関与は「無視すべ
きではないが重要ではない」と語った。
さらに、暴動の背景とされる移民社会の困窮を和らげるため、(1)貧困地域で社
会活動に携わる団体への財政支援増(2)学業不振者に対する職業訓練の前倒し(1
6歳→14歳)と、優秀な生徒への奨学金の3倍増(3)6月に発足させた国の反差
別機関に懲罰権限を与える――などの方針も表明した。
アフリカ系2少年の感電死(10月27日)に端を発したフランスの暴動は、7日
朝までに274の自治体に拡大。約5000台の車が放火され、警察官や消防士10
0人以上が負傷している。暴徒の攻撃は学校や市役所、郵便局などにも及び、7日に
は一連の暴動で初の死者が出た。
このままでは、統治能力への国際的な信頼が揺らぎかねず、観光や飲食業など国内
経済への打撃も大きくなるため、強権による「短期決戦」に出たとみられる。
各地での放火は政府方針の発表後も続き、8日午前0時(日本時間同8時)までに
全国で324台の車が燃えた。
〈キーワード・夜間外出禁止令〉
フランスで「復活」する非常事態法は、アルジェリア戦争の国内的な備えとして生
まれた戦時法。AFP通信によると、その後は84年末に海外領のニューカレドニア
に1回適用されただけという。
閣議決定で同法が適用されれば、政府が任命する知事の判断で、地域と時間帯を定
めて人や車の往来を禁止できる。「戸外にいるのは無法者だけ」の状況を作ることで、
暴徒の活動が抑制され、警備・検挙活動もしやすくなる。ただ、飲食業など地域経済
への「副作用」も甚大で、期間は限られる。
各国で法の仕組みが異なるが、途上国や独裁国家では、クーデターや内乱などの際
にしばしば発動されてきた。先進国では大災害などの非常時を除けば極めて珍しい。
■ソース
http://www.asahi.com/international/update/1108/003.html