前413年、アテナイとその同盟諸国の遠征軍がシケリア第一の都市シュラクサイの包囲を
開始してから1年が過ぎようとしていた。
, ─── 、
/______ ヽ シケリア遠征軍指揮官ニキアス
l/−、 −\ | ヽ
i | |_| !
| /|ヾ ! ^V マンドクセ〜〜〜
/ーヘ ー ′ _ノ、
⊂、〜〜⌒ヽ ノ /\ ('A`)('A`)('A`)('A`)('A`)
` ー─┬ ´ヽ/ ヽ ノ( ヘヘ( ヘヘ( ヘヘ( ヘヘ( ヘヘ
| | \ |
ヽ| |ノ
シケリア全土をアテナイの支配圏に加えようと希望に燃え立ち同胞市民の歓声を浴びて
ペイライエウスをたった頃の面影も今は無い。
シケリアの同盟市の支援要請に託けて企てられたこの大遠征にニキアスは極力反対した。
, ─− 、
/___ ヽ
l ⌒ヽヽ l ヽ 「ペロポネソス側とは平和条約を
|・ |─|_ l 結んだとはいえ何時破棄されても
c ー ′ ) / おかしくない状況にある。
.mnー つ \/ 危険な賭けはよしたほうがいい」
| ∩ ` ー┬___ l、
ヽ ヽ /|/\ / \
\ ` ヽ| ヽ/\
` ー ´| l\ ⊃
lー‐──┤ ヽ_ヽ)
しかし好戦的民議会はアルキビアデスの主張に従って軍勢派遣を決定。
_____
/ , へへヘ∧ヽ
| | \l l/ | アルキビアデス
/⌒ ( . ∠ l 「シケリア人なんか烏合の衆さ
ヽ_ (二) ヽ 10年来の戦争で鍛えられた
l ______つ ! 俺たちの敵じゃないぜ」
>、 \|_|_|_/ /
/ l ヽ、 ____ /、
/ ` ー──‐─ ´ \
/ | __(^| /⌒ ヽ
/ヽ| (二 ヽ / |
l \ /\ /
`ー 、 ヽ /
主戦派のアルキビアデス、ラマコスとともに指揮官に任命され
遠征軍の全権に与ることになった。
, ─- 、
. ゝ/_____ヽ
/ | ノ ⌒ヽ ⌒l 「…こうなった以上は進んで危険を
| __|─| ・| ・ | 招かないようにするだけか」
( `ー oーヽ
ヽ _ ノ
>─── ´ )
/ \/\| /
だが事態は彼にとって皮肉な展開を見せるのである。
遠征軍がシケリアに到着した頃
____
. / / VVヽ 「アルキビアデスさん、あんたに召喚状だぜ」
| _| / (0 | | | ||
|( ⊂⊃ _______ ___
|/ /⌒─┘ | ___< /ヘ へ\ _
| ヽ⊇ | _| | 0| ̄ / (_)(丿 ヽ ((
/ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ |( ゙ - o__ ( ^(* ⌒ ) ))
. | | | | |´ / ̄ ̄ ̄ ━┓ `i===i_´_ノノ
|ヽ/ヽ|__|/\| |二ヽ= (⊃二二||☆//(┌─ ′ノノ
| / ヽ | | |⌒|| \\ ||__//_|
. |─-l_l_l_l^'─┴∩|_|_|_|_∩ ノ| | |
\ _______|_| \uu_|_|_| // | | |ヽ
ノノ __// ノノノノ )) _ /
| | | | | | ─ `−'(( (( (__ノノ ─
( ) ( ) ☆ / / \
「げげー、特務船サラミニア!」
その頃、アテナイ本国では石柱像破損事件に端を発した民主政転覆疑惑の嵐が吹き荒れ
多数の市民が投獄、処刑されるという情勢にあった。
「ばかにしやがって。
スパルタに亡命してやる」
___
/∨∨∨∨ヽ
| | \,,/ | 「ご自分の町が信用できないんで?」
|_| (・__ 0 | _______
(d ⊂⊃ ヽ > ____ |
| i ノ  ̄|,−、\ | |
/ \___3___/\ )) |・ | .|__|
| _|| 、 _ ) ─゚ `-′ 6)
|─| ~  ̄ ̄| /| > /
| i `--──┴─′ | ノノ _ ̄ ̄7─┤
| | | ∈  ̄| ̄ ̄)|
 ̄ ̄ ̄ ̄
/  ̄ ̄ ̄ \ 「かーちゃんにしたって白と黒を
/ / vv 取り違えて投票しないとも限らないからなあ」
| | |
| (|| ヽ _______
,ヽヘ / | >_____ |
/\\ /  ̄ |⌒ v⌒ヽ |__|
/ \\ __ / | .| . ノ )
/ `\| < ` o `- ´ ノ
| ヽ > /
| | l | /▽▽\
残された両指揮官はシケリアに到着した初年、小競合いの一方シケリア諸市に
同盟工作を行いつつ越冬。翌夏、態勢を整えたアテナイ勢はシュラクサイ市へ迫った。
, ──− 、
/ \
( ( ( \ ヽ
|ノへ へ\ヽ l シュラクサイ軍指揮官ヘルモクラテス
| |) | |) | | l 「アテナイ人め、目に物見せてやる」
/ ー、 ー ^Y
l 、─ 、 _ ノ、
(\ / \ ヽ__ノ / 、 ヽ
/⊂ヽ. l 、ノ `,ー─−´、 ___ヽヘノ
ヽノ ノ \ //l/ \/ ヽ 「`l
 ̄\ l l | | |
シュラクサイ市北西の丘陵地帯から侵入したアテナイ勢は守備隊を撃破し砦をすばやく構築。
続いて遮断壁の構築を急ぎシュラクサイ包囲の態勢を固めようと試みた。
____
/ \
i──────┐ ヽ
| ⌒ヽ ⌒ヽ\ | | 「これが完成すればシュラクサイは
| >|・ |─-|_ / 完全に孤立する」
j ーc ─ ′ ヽ
⊂____ /! _ノ
_(\ \ \ __/ /
(─ ヽ、 ` ─_──イ- 、
ヽ二_ノ \/|/\ / \
敵の意図を察知したシュラクサイ側は2度にわたって対抗壁を築き包囲計画を阻止しようと努めたが
アテナイ側はことごとくこれを攻め落とし砦から湾にいたる南側遮断壁を完成させた。
゙''ー 、 .. 、__
゙−‐''''''^ .┃ ´^┐
┃ `、 ━シュラクサイ側城壁
┃ ヘ ─アテナイ側城壁
┃ 」
┃ '、
アテナイ側円形砦 ◎ ┃ │
\ ┃ f'´
\ ┏┻━/
/\ ┃_ ⊂ 、
\ \/ `''ヽ ゝ
\./ ゝl′ シュラクサイ市
丿 `′
''‐ 、
/ /ヽ-、
ゝ_ ┌′ '''''、
゛''''''′ 丶
この際の戦闘で友軍の救援に赴いたラマコスが戦死。
全軍の指揮権は本来この遠征を望んでいなかったニキアスに委ねられる事になったのである。
とはいえ、のこる北側の丘陵地帯を縦断する遮断壁を完成させられればシュラクサイは
完全包囲の窮地に追い詰めらる。絶望的になった市民の間では休戦論が持ち上がりはじめていた。
「これ以上被害の出ないうちに
降伏するのがいいと思うな」
___ ____
ゝ/ ____ヽ __ 「あたしも。」 /____\
./ | / | /´ ⌒ヽ ___ |/ . .ヽ | ヽ
l _| (・ l / /_)ノ)ノ)ノ /______ ヽ _l (二 |_ ノ
| ( _) | _| | (| |(| | l | ⌒ ⌒ | ( ___ ) ∩/)
ヽ / ノ) ( u ー ゝ´ヽ | | ┃ ┃ | l ___) ノ / `三
〉__┌ <) /ヽ O ノ ノ/ < ノ L. ー┬_−ヽへ / ̄
. /‐──┬` _∩.'ヘノ 〉ー‐┐´ く ヽ \_/ \_ ノ / l/ヽ/ /
/ ( \l 〈 ノ /´ヽ ̄´ヽ ` ` ー┬ イ (ヽ/ヽ| |
. \/ `ー ´ / / / /)__ |\ //_//三` / | |
「あと、ヘルモクラテスは責任とって解任」
しかしスパルタから派遣された指揮官ギュリッポスがシュラクサイ救援に駆けつけるに及んで
情勢は急展開した。
___ スパルタ民議会
/ wwwwwヽ
l | \| |/ l 「スパルタ市民諸君、シュラクサイへの援軍をためらっては
/⌒ ( ・ ∠ ヽ ならない。アテナイがシケリアを征服すれば次にはイタリア、
ヽ_ 、 (二) ヽ カルタゴをもあわせ、最後にペロポネソスに攻め入るだろう。
l l \__l_> |
/ヽ ヽ、 / ノ おれがそう計画したんだから間違いない!」
/ \ヽ、  ̄ / _______
./  ̄  ̄ ̄ ̄ l`ヽ ,−、 >_____ |
l_|(_)、 ヽ  ̄ |⌒ v⌒ヽ |__|
/ | /ヽ ノ | ゚ | ゚ ノ ) (そりゃそうでしょ……)
___/ l / < ` o `- ´ ノ
//ヽへへへへヘ/ヽ|、_ / > /
ギュリッポスは道々救援軍を加えながらアテナイ勢が侵入した経路からシュラクサイ勢と合流、
アテナイ側の城壁構築を妨害すべく対陣し対抗壁を築き始めた。
__ゝ,..───..、
/ : : : : : : : : : : : :\
/:: : : : : : :; ───┬` ギュリッポス
i : : : / / /^ヽ ! 「さてアテナイの諸君、五日以内に
|:: :: :: ; -v' | | ゚| | シケリアから撤退する意図があるなら
!:::: :::| d `− ┐ こちらは休戦を結ぶ用意があるが?」
ヽ::: ::ヽ_ ┌── !
\;イ ヽ./ノ
_j___┬─ ´
/───-ヽ ∩
/ /⌒\ | /  ̄,⊃
| ヽ \| /\ _ノ
, ─── 、
/______ ヽ
!/⌒ヽ ⌒ \ | ヽ 「生憎だが、お引取り願おう」
| ミ|・ |─| |
/ ー c ー ′ r -、ノ (レギオンに遣った艦隊に捕捉され
!⊂── ⌒ヽ _ノ なかったのか。運のいいやつめ……)
\ヽ、 __ ノ ノ
(二(⌒ヽ ` ,─── く
| ) | ̄ ̄ |/ \/ ヽ
` ─ ┴─ ┤ | |
そして戦機熟すと見るや攻撃に打って出てアテナイ勢を破って城塞に追い込んだ。
その間にシュラクサイ側の城壁はアテナイ側の城壁線を越えて完成し包囲の危機を
脱したのであった。
丶
`-......,,_
゙''ー 、 .. 、__
゙−‐''''''^ .┃ ´^┐
シュラクサイ側対抗壁→ .━━━━━━┫ `、
/ ┃ ヘ
北側遮断壁→ / ┃ 」
/ ┃ '、
◎ ┃ │
\ ┃ f'´
\ ┏┻━/
/\ ┃_ ⊂ 、
\ \/ `''ヽ ゝ
\./ ゝl′
丿 `′
''‐ 、
/ /ヽ-、
ゝ_ ┌′ '''''、
アテナイ側は、もはや敵の城壁を戦闘によって奪取するほかは包囲を完成させる望みを失った。
こうして遠征軍は補給の困難から、さながら篭城勢のごとき状態に陥り続々と数を増しつつある
敵勢に陸上において包囲される形勢となったのである。
, ─── 、
/______ ヽ 「ぼくは腎臓の病でこれ以上任務に耐えられそうにない
l/−、 −\ | ヽ 本国に送った使者がよい成果をもってくればいいが……」
i ・ | ・ |_| !
| | ! ^V マンドクセ〜〜〜
/ーヘ ー ′ _ノ、
⊂、〜〜⌒ヽ ノ /\ ('A`)('A`)('A`)('A`)('A`)
` ー─┬ ´ヽ/ ヽ ノ( ヘヘ( ヘヘ( ヘヘ( ヘヘ( ヘヘ
| | \ |
ヽ| |ノ
「陸上では優位に立った。次は海戦を挑もう」
/ ⌒ ゙ ⌒ \ __
/ ∠ \_ ヽ /⌒ \
i / -、 -\j ( (、-、(\ ヽ
| _/ | (| |(| | | |) | |__ !
|(t ゝ l _ ┌ ´ r) /
└\ ヽ ̄/ ノ ∩// ー┐ >、⌒ヽ
/\─_-、´ l (、 ) ー─,___l、 \ノ
/ ^\ /^ヽ!^\/\/ /!/\/^ヽ
| |==D=| / | l | |
攻撃目標は遠征軍が砦を築いていたプレンミュリオン。
ギュリッポスは陸上部隊を率い夜暗に乗じて接近し、シュラクサイ艦隊は海上から攻撃、
陸海両面からアテナイ側を混乱に陥れようと試みた。
/ ┃ 」
/ ┃ '、
◎ ┃ │
\ ┃ f'´
\ ┏┻━/
/\ ┃_ ⊂ 、
\ \/ `''ヽ ゝ シュラクサイ市
\./ ゝl′
丿 `′
''‐ 、
/ /ヽ-、
ゝ_ ┌′・プレンミュリオン
゛''''''′ 丶
アテナイ側はこの動きに気づいて急遽艦隊を発進し海戦となった。
両軍は湾口付近で激しく拮抗しあい戦闘は長時間にわたった。
/二二二ヽ
「いーぞやれやれ」 |∧,,∧ | | 「シュラクサイのボロ船
__ | ・ ・ |_| なんてやっちゃえ」
/ /  ̄ ̄ \ ⊂二 __)
⊂二>_ヽ__(_ ̄_ ヽ i / ̄ ̄└─┐ ノ|\l>
| ・) ・) | |) | |) | | ⊂二二>-┬// |∠lヽ
( ^ | 丶 _) | (・ )( ・ ) |_ ̄/▽▽^゙\
` -─ ヽ._⌒ ィ−' | ⊂⊃ _)| | |\ヽ
/ / || ̄||^ヽ ヽ、(「「「「).ノ | | |//
| | | || ⊂ ̄) ̄/ ̄ ̄ ヽ| | (_)′
プレンミュリオン守備隊
\ __┌i /
/ \ |_|ヽ/
__ / (( ))| |( )) __ 「そろそろ頃合だ。いくぞ!」
l⌒\ \ ̄ // ̄ヽ>、 /
\/⌒\ ヽ ̄ ゙==′\. /
ヽ ノヽノ i/
|⌒//  ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ | |. ._ _. _ ._ _
| | | /\. | | _/i_ヽ_ __/i_ヽ__ /i_ヽ_/i_ヽ__/i_ヽ_
__| | | / ̄ ̄\ | | . ── . ── . ── ── ──
ヽ ̄ノ | ̄ ̄ ̄ ̄| | | | = = | | = = | | = = | = = | = = |
ギュリッポス率いる陸上部隊
払暁、ギュリッポスは城塞の守備兵が海戦に気を取られている虚を突いてこれを占領。
これに対してアテナイ側は湾内に突入し陣形を乱したシュラクサイ艦隊を散々に打ち破り
海戦において勝利を収めた。
__ _
/ `ヽ
/ / )ノ )ノ )丿
| / / -、 -、 ! 「さすがは音に聞こえしアテナイ海軍
. ヽ_/ | (| |(| | 策を練る必要がありそうだ」
( `- ゝ- l
/`\ ( ̄/ ノヽ
(ヘ丿 j` ─ ィ ´ヽ,ノ
(ヽ∩ ̄ ⌒ヽ
三_ノ \/ /l
だがプレンミュリオンの城塞喪失はアテナイ側にとって大きな痛手となった。
一つは、砦に貯蔵されていた多額の財貨と物資が敵の手に渡ったこと。
さらに深刻なことに敵側が湾口を封鎖することによって物資の搬入を阻止可能になったのである。
プレンミュリオン奪回の成果は、シュラクサイ側によって諸市に報じられた。
___
/`ヽ/ / `ヽ 「シュラクサイ側が優勢なんだって」
ヽ └┐ l ___
,−| | (・ j /´ `\
ーl /⌒ ー´っ /__ll_ll__ll_ ヽ
l ヽ_ // ヽ | | -、 - 、ヽ| l
ヽ/ | l /´ ̄ ̄l l l |) | |) | l |ヽ |
l `ー─‐ノ l / ー、 ー ′| |ノ !
/\ |、 ̄ ̄__ ノ l 、-、 l |
/\ \ / ヽ ,l | | lヽ ` ー\ _ ー′ ノ____ ノ
. / \ \/ | | | /l ̄ |ヽ、
| \ ヽ ヽ イイ / ヽ \ // \
「じゃあ、勝ちそうな方に適当に援軍を送って
義理を立てておくか」
それまでは日和見を決め込んでいた国々もアテナイ勢が劣勢にあると知ると
思惑はそれぞれにシュラクサイに組して援軍を送ることを決定した。
, ── 、
/ / \ \
l/- -\ ヽ 「アテナイの増援が派遣されたとの情報も入っている。
| |)| |)| l__ | そのまえにここで決着をつけよう」
l 、 )'
ヽ、ヽ ̄ノ ノ
__∩__,-l二二 l-、
∈ l ! ヽ
 ̄  ̄ ̄|===D=| l
| |.ノ
今や優勢にあるシュラクサイ勢は勝敗を決することを望み陸海両軍一斉に攻撃を仕掛けた。
アテナイ側もこれに応え陸兵は城壁の守備につき、艦隊は敵海軍を迎え撃った。
___, - 、
/ ___)
/ | ノ i 「海上でアテナイ人には敵わんことを
. i __| (・| 教えてやれ!」
| ( ○ ┃
ヽ/ /⌒ヽ__つ _ ┃
_| |二⊃ (^ヽ、 ┃ 弋中≠≠≠≠≠≠ ̄(
| \ ヽ──、 (⊃`ヽ) _ ┃ ~~^^~""~'"^~~""~~~~^'"^~~^'
/ \ ̄j ̄\/\へ ノ 弋中≠≠≠≠≠≠ ̄(
| `7 \`> ~~^^~""~'"^~~""~~~~^'"^~~^'
___ , - 、 ( ( (ヽ、 \
, ─ 、) \ iノ-、 −ヽ\ ヽ /
/ノ | | ・|・ |-|___ノ 「敵艦、突っ込んできます!」
_/ (・| / (| ー、`−´(⌒i) \
U ○ ヽ (⌒ヽ | |ゝ
___) _∩ ` ┬´ イノ∈ヽ
(__/ ∈ ) /^l ̄ ̄(__ノ__/
\──´  ̄ヽノ\/ .|───-| \
ヽ \ /____ノヽ ノ
i `-´ |____|  ̄
「素人がやけになったか」
どーーーーーーん
┃ ┃三
_ ┃ベキベキ _ .┃ _
弋中≠≠≠≠≠从从〕 ≠≠≠≠≠≠中ナ 三
~~^^~""~'"^~~""~~ ^~~~~゛゛~~^゛'~゛゛~^^~~
,−、 __
(────、ヽ
// \ | |
| ミ ・))# l_ | 「船首をむしりとっただと!」
/ ⊂⊃ )
!⊂__/⌒ヽ ノ\
\ヽ___ ノ/ \
/ `───/ ヽ
/ \/ i
先の海戦の経験からシュラクサイ艦隊は強化した衝角をもって敵艦に真正面から
衝突する戦法を採用した。アテナイの軍船は、最高度の練度を誇る漕員と軽量な
船体からくる機動力を生かして敵船列を撹乱する戦法を得意としたので、船の動きが
制限される湾内で真っ向からぶつかることによって敵の戦法を封じたのである。
_
/  ̄⌒\
. / / \ ヽ
/ / / -、ヽ、! 「アテナイ海軍恐れるに足らず!
l /^ヽ/ | (| | このまま陸上でも敵を屈服させるとしよう」
l ヽ_ ┐
ヽ/ \ ノ
l _ /
[ 二二 ] 「伝令!伝令!」
/ ⌒ヽ ヽ /O。O ヽヽ
l=| |==| | (⌒) 〇 l ミ
\\\ /⌒\ , ─ 、
/___ヽ / ヽ\\\
/  ̄  ̄ ヽ. i
\\ /  ̄ ̄ ̄ ̄ \ \ |
/ へ /ヽ ヽ ヽノ
/ /^ヽ /^ヽ ヽ ヽ 「アテナイの増援部隊です!その数…約73隻!」
|. | 0 | | 0 | | i
\\| `− 6 `−′ |. |
! ! !
ヽ /  ̄ ̄ ̄ \ / /
\ \_ (⌒ヽ丿 / /
━━━6━━━━━ヽ、
/| / ___ \ /⌒ヽ
(⌒ | | ヽ ノ i ` ┬′
この大兵力の敵増援軍の到来を目の当たりにしたシュラクサイ人の驚愕と失意は大きかった。
対してアテナイ勢は窮地にあって長らく待ち望んだ援軍の威容を目にし再び勇気を奮い立たせたのである。
デモステネス
____ 「やっときてくれたか」
/´ −、 −、\ , ── 、
/ , -─| ・|・ | 、ヽ ´ /___ ヽ
/ / ー ●ー `ヽ - l− 、ヽ | ヽ
l l ── | ‐─ l 、 |ミ |─|__ |
| l 二二 | 二二 l c ー ′ 6) /
ヽ ヽ \___|__/ / └─ ⌒ヽ \ /
\ ヽ \__/ /○ ⊂二 ___l
>━━━━6━━イ / ノノ __∩ / ── l
/ / \ |/ ∈ | ̄ ̄ ̄) |
「遅れてすまない」
第二次遠征軍を率いてきたデモステネスは戦況をつぶさに実見し終わるとニキアスら
同僚指揮官たちと協議して言った。
____
/ \/ 、\
/ , -| ・|・ |- ヽ 「敵が増援軍の到来に動揺している今こそ
/ / `− ●- ′ | 最良の攻撃の機会だ。
| | 二二 | 二二. |
| | |\ -─ | ─___) 丘陵地帯を奪回し敵城壁を破壊できれば
_ ! | !  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / /_ シュラクサイ陥落は目前になる」
( __)\ヽ \(二二二)//(__)
\ ━━━━6━━ /
| /___ヽ |/
| | ヽ__ノ ノ |
「そううまくいくかな」 「だめなら撤退するだけさ。
これ以上無意味な犠牲は出せない」
, -── 、 _____
ゝ/ ____\ /−、 −、 ヽ `\
/ | ノ / ⌒ヽ! / | ・|・ |- 、 ヽ
l |__| ・| // `ー●ー ′ \ ヽ
| /⌒ U ヽ_.ノっ / ─ | ── ヽ i
ヽ ヽ _ つ | ─ | ── | |
\/ / ̄ ̄ l ─ | ── l !
)__ 二二ノ ヽ / ̄\ / / _
/───ヽ _ ヽ/ \ / /(__)
| ⌒ヽ | (__)ー━━O━━━━━ ´ /
| | | | ヽ | / \ /
デモステネスは指揮官たちを説き伏せ夜間奇襲を敢行した。
| l !
| ヽl 「それ、敵兵は寝静まってるぞ」
| lヽ、 / ___ ___
| |  ̄  ̄ / ヽ=@ / \
| | |^ヽ | / ヽ
| | |、_ノ ノ | |
| | ヽ、__  ̄`ヽ ! ノ
| | ,-、_ノ \ノ ヽ_ ⌒⌒ヽ
| | (___ノ\ l (⌒_ ヽ^ー′
| | / , ┐ `ー⌒ヽ  ̄ ヽ ⌒ヽ
| | (^ヽ/ / `ー─、_ノ l⌒ ___ |
| | ヽ __ / \ __ノ ̄ `ー ′
| |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アテナイ勢は第一次遠征軍が進入したのと同じ登攀口から丘陵地帯に攻め上り
敵軍の哨戒線をくぐって付近の砦を奪取、逃れた敵兵は危急を知らせシュラクサイ側の
守備隊が急遽駆けつけたがアテナイ勢はこれも撃破し逃げる敵兵を追いまくった。
______
/ −w−、\
/ , -| ・|・ |-ヽ
/ / `ー ●ー′ i (夜襲は成功だ…敵軍は混乱している)
| / U 三 |__ 三 |
l | __) ! (だが…まずい。戦列が乱れて統制が取れない。
ヽ ! __) / ここで優勢な敵勢に遭遇すれば……)
ヽ ヽ __ ./
l━━(__ )━O━く
| /___ヽ\
___
/ \ /
/ ヽ − 「ん?このドリス訛りの戦闘歌は
| | ヽ 味方のアルゴス人部隊……」
! !
\ ノ \丶 ワーワー //
━━━━━
/ \
____ /
/ / ⌒ヽ⌒ヽ\ /
/ , -| (((|))) |-、ヽ _
/ / ` ー ●ー′ ヽ
/ / 二 | 二 ⌒ヽ 「いや、ボイオティア兵だ!」
| | /⌒\─ | ─ __.ノ
| ! /  ̄ ̄ ̄ ̄ / /
. | | | (⌒ヽ⌒) / /
ヽ ヽ、______/ / ))
(( >━━━━O━━ く
/ / ____ ヽ ヽ
一旦先頭部隊が敗走しだすと混乱は全軍に広まった。
散り散りになったアテナイ側部隊は友軍と鉢合わせても敵かと恐れ、
識別の為に盛んに合言葉で呼ばわったが、頻繁に応答を繰り返したので
終いには敵兵まで合言葉を覚えてしまうほどだった。
,- 、,− 、 __
// | \.i \
/! (0|0) ノ−、 ヽ 「なんという失態!」
__|  ̄● ̄ \ ヽ ──
\ 三 | 三 ヽ |  ̄ ̄
 ̄| ̄ ̄ ̄ ̄\ | | ──
|(二二) ノ | __ !
__==(__) ̄ ̄ ̄ ~~\ ──
(__)___ヽ  ̄ ̄ ̄ヽ ヽ
,−、ヽ ̄ ̄ノ | ヽ-o ──
| |ヽ二二ノ .|^ヽ  ̄ ̄
(( ヽ__ノ ────── !__ノ
到着して日が浅く地理に通じていない第二次遠征軍の兵士の多くが道に迷っている間に
朝を迎えシュラクサイ騎兵隊の残兵狩りにあって命を落とした。
アテナイ側の犠牲者はおびただしい数に上った。
── /  ̄ ̄ ヽ ─
/ __ |、 ゙
(|/  ̄ ヽ、 =
/ i/ ̄ ̄ ̄\\
三\/ | > /⌒∋
(/U ヽ/⌒`|ヽ/ \) ̄
i/ ̄ヽ \ | ̄/i⌒
 ̄ ̄ | ̄ ̄| ` ┴┤|─ |
─── ヽ__丿 ! | 丿
この敗戦でアテナイ勢の士気は著しく低下した。
デモステネスは対策を協議するために集まった指揮官たちに向かって
かねてよりの考えどおり撤退を主張。
「こうなったらもうシュラクサイは落とせない。
このまま時間を空費すればこちらはますます消耗して撤退は難しくなる
今なら制海権はこちらにある。成功の目算のない戦いを続けるべきじゃない」
, ──── 、
/ / ⌒ヽ⌒ヽ\
/ , -| /・|・ヽ |ヽヽ
/ / ` ー ●ー′ ヽ
l / 三 | 三. | , ─── 、
| l └─-、 l /___ ヽL
l | /´⌒\ ___ ノ / | ⌒\ | ヽ
ヽ ヽ ヽ、_____/ / |・ |─| |
〉━━━━━O━━ー◯ c 、_ノ ⌒ヽ l
/ / ___ヽ / ( _ _ノ /
/ | ヽ ノ | | ヽ \ /
◯/ `ー‐<⌒ヽ─ ヽ /^) < ____ 〈
l | | l ( ノ⊂) l/\/ヽ
` ー──く __ノ── ´ ヽ _ノ\ / l /⌒ヽ
\ | | |
「だが本国の決定なしに撤退は許されない!」
民議会の市民たちは事実の目撃者ではない。彼らの意を迎える何者かが
言葉巧みに中傷するならば我らの言い分は認められずに裁かれるだろう。
ここにいる将兵たちとて同じこと、一旦故国に帰れば指揮官たちは
買収されて兵を引いたと騒ぎ立てるにちがいない。
ニキアスはそう考えて、デマゴーグの責任追及を恐れたのだった。
____
/´ `\レ
/_______ ヽ
|ノ─ 、 ─ \ | ヽ 「それに敵も膨大な戦費の支払いに困窮しているんだ。
| v|・ l_| ! 現にシュラクサイ内部でぼくらと内通している者もいる…」
,| | | Ul´⌒Y
l/`ー ヘ ` ─ ′ ( |
l__ _ ノ- 、
(_/⌒ヽ_/⌒ // l
` ─┬─┬ /ヽ/ /|
|___| ` /\ / |
, ────- 、
/ /⌒ ヽ ⌒ヽ\
/ , -|/ ・|・ \| 、 ヽ 「撤退に本国の決定を仰ぐ必要があるなら、
/ / ` ─ ●ー ′ ヽヽ 近隣の同盟市に移動してそこで作戦を継続すればいい。
l / ── | ─ | なにもこっちに不利な狭い湾内に留まる必要ないだろ」
| / ── | ─ |
| l ── | ─ l
l | / ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ /
ヽ ヽ (_____ノ / _
>━━━━━ O━━─( _ )
/ / ヽ /
しかしニキアスはなお反対を唱えたのでデモステネスもこの場は引き下がり
遠征軍の撤退は見送られることになった。
一方シュラクサイ側は敵増援部隊の到着で落胆していたが、案に反して
戦況が好転したので再び士気は旺盛になった。
___
/⌒ `\
( ( ( (\ ヽ
l`ヘ `ヘヽヽ l 「アテナイ側の砦を攻め取るのも
| |) | |) l | ! 夢ではなくなってきた」
/ ー、 ー ′ ⌒Y、 _
l ー─┐ _ノ ヽ | |
/ \ \_ノ / \(ヽ (、ヽ
l _ノ ` ー┬ ´ノヽ、 ヽ _ソ
/  ̄ /⌒\/ /
/ | ヽ /
シケリアの諸地の軍勢にペロポネソスからの援軍を加え今度こそアテナイ勢と
決着をつけるべく攻撃の準備を始めていた。
__
/´ `\ 「リビュアに漂流して、一時はどうなるかと思ったよ」
/┬─<二二⊃ , ──- 、
|__| /| /| |ヽ|| ∠_____ \
( ー oーヽ | ヘ ヽ |_ ヽ
| ┌── | d __ ) l
ヽ ヽ __/ ノ | ヽ ( \ /
`ー─ 、´ ヽ ヽ__/ ノく
/|/\/ \ /`ー── ´ \
/| ヽ/\ /_/ / \
/`| |\ ヽ / | \ ヽ
/ /|___| | | l | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | |
(_ ) | | (_) (_| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ( _)
/ ヽ ヽ/\_ノ //ヽ / |──────/┤ \
| ̄ ̄ ̄/ / \./ `ー'ヽ| ̄ ̄/ | ̄ ̄ ̄ ̄|
ペロポネソスからの援軍
もはやアテナイ側に決断を躊躇している余裕は無かった。
シュラクサイ側の戦力が増強されていくのが明らかになるとニキアスも今度は反対せず、
指揮官たちは撤退を決意すると秘密裏に夜間出航の準備を行うよう通達した。
::::::::::::: ::. :. .: : -‐- ..:. .:.: ...: ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::::.....:.... : ,r'´. `ヽ: .. ......:..:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::.:: .: ..:..:' ..:. ゙; :... ...:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::::::::.:....: :. ::.. .: :....:.::......:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::.......: ..:..:ヽ ::::... ..... ,.': :.. :. :............::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::.::::. ::.. :..:. :` ー- ‐ ''"... ... ..: :..:.::::.::::::.:::::.::::::.:::::::.::::::.:::::.::::::.:::::::.::::
:::::: :::::: :::::: :::::: ... ... .... :::::: :::::: :::::: :::::: :::::: :::::: :::::: :::::: :::::: :::::: :::::: ::
だがこのとき偶然にも夜空の満月に影がかかり始めた。
遠征の企てが全て挫折し絶望的になっていた兵士たちはこの月蝕で激しく動揺、
またニキアスも信心深い性質だったのでこの兆しを神の啓示だと解した。
, -──- 、
ゝ/_______\
/ | ノ ─ 、 ─ヽ|
i | | (|∠ | 「出航は中止しよう。
| __|─| | | 占い師たちはこれから27日の間いかなる行動を
V ` ー─ ´`っ‐´L とるべきか協議することも慎むべきだといっている」
ヽ_ ____ノ
\ /___/ / ) )、
/` ー─┬─ ´ / )/ //
/\/ \/| ̄ ̄ ̄| ` ノ
/ ヽ |─── `ー ´
この逡巡が遠征軍にとって致命的な結果を招く。
この出来事を知ったシュラクサイ側は俄然気負いたった。
/´  ̄ ´⌒ヽ
/ /)ノ )ノ)丿
l / −、 −、| 「夜暗に乗じて逃げ出そうとした彼らは
ヽ _l | (| |(| ! 私たちと戦う力がないことを自白したに等しい。
_( ゝ lヽ みすみす逃がしてやる必要はない」
∠__ノ\ (⌒ソ ノヽノ
/` ー─, ´ ∩/)
/ ) ̄ ̄ヽ\/ 三
_/ / l、 / ̄
∈ ノ ノ、 ___/ `
シュラクサイ勢は日数を費やして海軍の操練が十分行われたと見ると陸上部隊とともに
艦隊を発進させアテナイ側艦隊に海戦を挑んだ。
____
/ -w- 、\
/ , -| ・|・ |-ヽ
i / ` -●-′ | 「ここで制海権を奪われる
| | .三 | 三. ! わけにはいかないぞ」
ヽ ヽ (  ̄ ̄ ̄) ノ
○、_>━━o━━━ ヽ
ヽ_| / ___ ヽ ○__)
| i ヽ ノ ノ |
アテナイ側もこれを迎撃し艦隊を分けて右翼によって敵艦隊を包囲しようとしたが、
シュラクサイ艦隊によって中央を突破されると各個撃破されてしまう。
この海戦の勝利によってシュラクサイ側は湾口の封鎖作業にかかり
海路脱出を図るアテナイ艦隊を迎え撃つ態勢を整えた。
\ ┏┻━/
/\ ┃_ ⊂ 、
\ \/ `''ヽ ゝ
アテナイ海軍停泊地→ ・/ ゝl′
丿 `′
''‐ 、 》 ←封鎖線
/ /ヽ-、
ゝ_ ┌′ '''''、
゛''''''′ 丶
敵の意図を察知した遠征軍指揮官らは対策を協議した。
「食糧の備蓄はもうわずかだ。
直ちに海戦によって血路を開くしか将兵を救う道はない」
___
. ____ /____ ヽ
/ - 、-、\ |ノ-、 − 、ヽ| |
/ , -| ・| ・ |- ヽ | ・|・ |-|__ /
i / ` -●-′ | | ーo − ′ )
. | l 二 | 二. ! ヽ└┬─┐ ノ
! |. ─ | ─ / (\∩ ` ─_──く
\ ヽ. / ̄ ̄ ̄ヽ/ /) !\/ |/\/^\
/━━━━o━━ヽ ` - ′
「敵艦隊の戦術に対抗してこちらは投鉤を使おう
僕らの好む戦法じゃないけど、これで突入してきた敵艦が
逆櫓で後退するのをふせぎ甲板の重装兵でもって乗り込む」
作戦が決まると即座に実行に移った。装具と傷病兵を収容するだけの陣地を確保し
残りの城壁を放棄すると守備兵以外の陸上兵力を全艦艇に乗り組ませるよう準備を整えた。
_____
/´ `\
ゝ/ _________ヽ
/ | ヘ、 ノ⌒ | 「アテナイの兵士諸君、今我々が臨む決戦は等しく
| | /  ̄`ヽ /  ̄`ヽl 全てのものにとって生死の境となる。
l | l lj | lj l
ヽ |_| | | 遠征に送り込まれたアテナイの精兵である我らが
/⌒` ヽ l ノ、 この異境に倒れれば祖国をも危険に陥れるのだ。
| ) ` ー─ ´ っー ´ l
ヽ__ /⌒\____つ ノ 諸君こそ、アテナイ最後の兵、最後の船!
\ ( ______ ノ / 全力を尽くして戦い全軍を、全同胞を救うのだ」
>ー───、─ ´
/ \ / \/ \
l l |/\
├─┤ |、
先の海戦で意気消沈している兵士たちを激励し終わると、ニキアスは乗船命令を下した。
シュラクサイ側もアテナイ勢の動きを見ると直ちに乗船命令を下した。
/ ⌒ ゙ ⌒ \
/ ∠ \_ ヽ
i / -、 -\j 「敵は絶望に駆られて一か八かの賭けにでたのだ。
| _/ | (| |(| | だが幸運は既に我らについている!」
|(t ゝ l _
└\ ヽ ̄/ ノ ∩//
/\─_-、´ l (、 )
/ ^\ /^ヽ!^\/\/
| |==D=| /
シュラクサイ艦隊は、一隊を湾口の守備に当て残りを湾岸に沿って配置。
アテナイ艦隊は発進すると湾口突破目指して一直線に突き進んだ。
_____
/ | ・| ・ | 、 \
// `-●-′ ヽ ヽ_ 「突撃!」
| 三 | 三 `(___)
| / ̄ ̄ ̄ ̄\/ /
ヽ\_(二二)_ / /
/━━(t)━ / /
/ (┌─┐) |
アテナイ艦隊は湾口に達すると守備艦隊を圧倒したが残りの敵艦隊が
四方から攻め寄せるに及んで艦と艦が触れ合う大乱戦が展開された。
, ───── 、
. / / ⌒ヽ ⌒ヽ \
/ , ┤ /・|・\ ├ 、 ヽ 「むむ…投鉤戦法は思ったほど効かないな」
/ / ` ー ● ー ′ \ ヽ
/ / ── | ── ヽ l
l / ── | ── | l
l l ── | ── l l
/´  ̄ `⌒ヽ
/ /)ノ)ノ)ノ
l //へ へ l
l __l | (| |(| | 「船体に獣皮をかけて鉤が
( ー ゝ´ヽ ひっかからないようにしておいた」
/ ヽ. ヽフ ノヽ
l_ ノ .> ー─<ヽノ
/|/ヽ///ヽヽ
l_l | |._| l
戦局は拮抗し両軍相破り破られる情景がいたるところで繰り広げられた。
この光景を遠征軍の陸上部隊は実戦に参加しているものに劣らない心持で見守り
全てを託したこの海戦の一々の勝敗に一喜一憂心身をすり減らしたのでる。
< シュラクサイ側がおしてる〜
_____
/ ̄ ̄ ̄ ̄\,, /−、 −、 \
/_____ ヽ / | ・|・ | 、 \
| ─ 、 ─ 、 ヽ | | / / `-●−′ \ ヽ
| ・|・ |─ |___/ |/ ── | ── ヽ |
|` - c`─ ′ 6 l |. ── | ── | |
. ヽ (____ ,-′ | ── | ── | l
ヽ ___ /ヽ ヽ (__|____ / /
/ |/\/ l ^ヽ \ / /
| | | | l━━(t)━━━━┥
< 味方が勝ってる!勝ってるぞ!
, -─- 、
/_____ ヽ=@ ____
| ⌒ヽ ⌒ヽヽ | ヽ / ⌒ヽ⌒ヽ `\
._∩| ^|^ |─|__ノ∩_ / / ^/^ / 、 ヽ
∈ ノl ー_ヘ ー∪ _) 、 ∋. // `ー●ー∪ \ ヽ
. ̄\\\ ̄ / / / ̄ / 三 | 三 ヽ l
\` ,ー─ ´l / | |\ | /| | !
ヽ|/ ヽ/ | ! ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ / / /
| | ◯ヽ \( 二二 )/ //◯
.|ー──┤ \ `━━O━━━━′ /
だがついにシュラクサイ側がアテナイ艦隊を圧倒し全面的攻勢に出ると
遠征軍兵士の喚声は悲嘆一色に染まった。
オ ワ タ !
\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/
両軍の損害は双方多大なものであったが、アテナイ側将兵の落胆は甚だしく
戦死者の収容を申し入れることも思い及ばなかった。
/ ⌒` ─ 、
/ \
| ヽ
| | 「これからどうすればいいんだ…」
(\ , -── 、/ノ
` /⌒ヽ ̄ ̄`ヽ、
| | i
| | |
| | |
|__|, ──── 、)
/_ノ |
/´ __|_,− 、___ ノ、
ヽ、_|__ )_.ノ
 ̄ ̄
その夜、指揮官たちは撤退について協議した。
「こっちにはまだ敵方より多数の艦が残っている。
払暁とともにもう一度海路脱出を図ろう」
, ─── 、
/ ,−w- 、 \ , ── 、
/ , ─l ・|・ l- 、∠_____ ヽ
. l / `ー●-′ lノ- 、− 、\| ヽ
| l 三 | 三 | >|・ l─l- 、!
_! l , ──┴─ 、(〉ーヘ ー ′ ノ
( __)ヽヽ ( ____ ノ⊂____ ノ´
l └‐>━,‐、━━━━く ` ┬,─‐く
ヽ _//ヽフ `ヽ _ノ ヽ /l/ ヽ/ ヽ
l ( _ )__ノ l l | |
だが敗戦に動揺した船員は乗り組みを拒否してしまう。
_____
/ − 、−、 \
/ , -| /・|・\|- 、ヽ
/ / U ` −●- ′ ヽi. 「これほどまでに士気が堕ちているとは…
| / 二 | 二 |. 陸路をとって撤退するしかないか」
| | ─ |__ ─ !
ヽ ヽ __) /
\ ヽ _) /
l━━6━━━━┥
| / \ |
これに比してシュラクサイ側将兵の喜びは大であった。
,. -‐==、、
,. ===、、 o ○o. i :::ト、
_,/ `ヾ´´`ヽ、 ゚ .l :::ト、\
// .::::/ :::::!===l :::|ス. ',
/./ .::::/ ::::l | __ ..... _::::|} ヽ l-、
. ,ィク ,'..__ .::::/ ::::l :l '´ `)'`ヽ ヾ;\
/::{゙ ヽ、 ``丶、;/‐‐- 、::::l `'::┬‐--<_ } ./;:::::\
/::::::::! ,>---‐'゙ー- ...__)イ ,. -‐‐-、ト、 |l::ヽ /;';';';';::::\
. /|::::::;';';'\/} (ヽ、 _/| (´ _,.ィ!::ヽ. ヾー'´;';';';';';';';';:: /ヽ、
/ ,ノ:::;';';';';';';';';'/ /ヽ、二ニ-イ ヾT ¨´ ,/;';';::`、. \';';';';';';';';';';〈::...
ヘルモクラテスは敵が夜暗にまぎれて撤退してしまわないよう街道および
山岳の隘路を遮断すべきであると提案したが戦勝に浮かれた兵士たちが
命令に従いそうに無いのを見て一計を案じた。
, −── 、
___ ( ( (\ ヽ
ゝ/____\ l ヘ ヘ\ l 「私は親アテナイ派のシュラクサイ人だけど
/ | 丿⌒ヽ⌒ヽl .(//)‐(//)―|_ ノ 夜間の撤退は控えたほうがいい。
l |─| ・|・ | l ○ )ヽ 街道筋に守備兵が待ち構えている」
Y^ ` ー oー ヽ mヽ ヽ⌒) /\ノ
ヽ_ ┌──┬ ノ | ノ `7二ノ/ヽ
ヽー─ イ | l / | ヽ \_
/ | へ/ `ヽ ヽ__ /ヽ l\ ∋
/ヽ| |__| / \∪
アテナイ側指揮官はこの情報を信じてその夜は出発を延期。
翌日には出発する予定だったが撤退の準備にあてられ、
海戦の翌々日に遠征軍は陸路同盟勢力圏内に向かって歩き始めた。
,,, ─- 、
// / __ ヾ
/ __ / | /\l
. / ( −|/ −| )) 「祖国へ帰りたい…」
| \ ノ
|| | /ヽ` −、´
| /  ̄ ̄| |
!/ / ノ | ||
/ /___/| |
(( (⌒ヽ/ | |__|
^/_____| ヽ,,),−、 __
| | | \_ ___ /⌒―、ヾ
// / /| | || / \/# / # Σ| 〉 ○| ミ
_./ ヽ/ | -|  ̄ | |# / #.人_〉_'±ミ/
| ヽ/ |_|__ ――└ ξ_ヾ /
ヽ =| (_゙_)
壮図破れた将兵の心痛は深く、宿営地に残されたものたちの悲惨は
ますます彼らの足どりを重くした。死せるものは土をかけられることもなく骸をさらし、
生けるものは友人縁者の姿をみとめると見捨てないでくれと哀願するのだった。
崩壊の危機にある軍勢を指揮官らは必死で激励した。
|
\ /
_____
/ ヽ /^ \
_ /________ ヽ (_/ ヽ
|ノ─ 、/─ 、ヽ | ヽ (_\/ ! 「諸君、現状がどうあれ希望を失ってはならない。
,| \ |・ | | j ヽ `−ノ この危地を脱すれば祖国の偉大な力を復興できるのだ。
|| 二 | | ̄ ⌒ヽ′ / /
/ /ー C ` ─ \) _ノ / / 男児らこそポリスをなすもの、人なき城や船がポリスではない!」
! ⊂──´⌒ヽ ノ/( / ノノ
\ \_(⌒⌒_) /! ヽ、/
` ,┬─_− ´/ ヽ /
/ |/ \/ く
(( /\ \ ヽ
/, ─ 、/ \ /\
( l l j \ ___ / ヽ
だが、撤退行は酸鼻を極める。
アテナイ勢は方陣を組み重装兵で弱兵を守るようにすると、ニキアスが先導し
デモステネスが殿を務めたが、行軍は思うように捗らずシュラクサイ兵の妨害で窮状は募った。
_n(^o^ )┛オマエラ オワタ
┗(^o^ )┓┗(^o^ )┓┗(^o^ )┓ ギャー <_゚へ ┗ Y 三
┏┗ 三 ┏┗ 三 ┏┗ 三 ┗(^o^ ;.;:,ゝゝ ̄ヽヽ 三
/^ヽ 「やっとのことで内陸に10キロほど進んだが
| ̄ | ____ 敵の追撃は執拗で食料も残り僅かしかない…」
ヽフ. /´ /⌒ヽ⌒ヽ\
.| | / , -|/ ・|・ ヽ|、 ヽ , ── 、
.| |./ / `ー ●ー′\ヽ /____ ヽ
.| | / 二 | 二 | l ⌒ヽ\| ヽ
.| | l ─ |__ ─ l | ヾ |─|_ |
/⌒ヽ| __) / o、__ ノ ) /
ヽ_ ノ\ ( ソ / l \_ /
| |ヽ. `━━━━O━━く ヽ、 l
∠二ヽl / \ ヽ  ̄∠二二l
「進路を変更して夜間敵の警戒線が張られていない
方面に抜けよう。陣営に松明を灯したままにして敵の目を欺く」
こうして密かに警戒線を脱したアテナイ勢だったがいわれのない恐怖心から突如恐慌に陥った。
そしてニキアスの軍勢がはるか前方に進軍している間にデモステネス率いる殿は隊形を崩し孤立してしまう。
/ ̄ ̄_ヽ
/ , -(・)p・)| 「おーい、
| |三_|_つO ニキアスの部隊はどこだー」
> (__/ /
C´/ /  ̄0~|
(_ (__二三( )
翌朝、シュラクサイ側が事態に気づくと直ちに追撃しデモステネスの軍勢は完全に包囲されてしまった。
// / /
/ , ─── 、
/ /⌒ヽ⌒ヽ\ /
/ , -|/ ・|<ヽ|、ヽ // 「くそ!遠巻きにして投槍と矢を射掛けてくるだけだ。
. / / `ー ●ー′ ヽ // こちらの消耗を待つつもりか」
l / 三. | 三 | /
| l /⌒ヽ、__|__) l
l | | / /
ヽヽ ヽ、 ____ / /^ヽ
〉━━,-、━━━━´ヽ_ノ
/ / ヽフ \. /
そしてついに降伏を余儀なくされた。
, ──── 、
. / /⌒ヽ⌒ヽ、
/ , ─| /・|・\|、
\ l / / / U `ー ●ー′ヽ 「む、無念だ」
\ l / ─ | ─ |
\ `─− 、 | l /⌒ヽ二 | 二 _|
\ l | | l━l | /ヽ_ ノ___|___)ヽ
ヽ.┗┿━┿━/ // /ヽ_ノ
 ̄ | /━━/ ⌒ヽ/⌒ヽ/
/ l ヽ | | ┌/| | |
☆ l ヽ/ ヽ、__ ノヽ.__ノ
ヽ / /
ヽ /
` ──┬─‐ ´
●
翌日にはニキアスもシュラクサイ勢に捕捉された。
「デモステネス麾下の将兵は既に降伏した。
君も彼らの選択に倣うことを勧める」
/ ⌒ ⌒\ , ── 、
/ ∠ \ ヽ /__ \
l / -、 -\j l⌒ヽヽl ヽ
| _/ | ・| |・| | |・) |-lヽ l 「ちょっとまって。
( ゝ l c ー ′lノ、 / それが本当か確かめさせて欲しい」
. \ , ノ └─ ヽ \へ/
┌──┐ < _ ___l
/ヽ ̄ ̄ ̄ ヽ ∠ ── l
l |==D=| | (ヽ _/ ヽ |
| | | | 三 | / |
 ̄  ̄ ̄
仮休戦が結ばれ偵察の騎兵が派遣された。
やがてその報告によって降伏の事実が明らかになるとニキアスは和議を申し入れた。
ゝ ───- 、
/ _____ヽ
/ | ノ ─ 、− 、| 「こちらが撤退するのを認めるなら、今回の戦争で
! __|─| //|ヾ | シュラクサイ側の戦費全部を賠償しよう。
( U − o-U l 支払いが終わるまでは人質も差し出す」
| /⌒ヽ__U___)/)
ヽ、ヽ ___ /ノ(⊃ )
/^\/\ノ\/ ̄/
だがシュラクサイ側はこの提案を一顧だにせず軍使を送り返した。
戦闘は再開。シュラクサイ勢が取り巻く中、ニキアスは行軍を続行したが
アッシナロス河に達すると全軍の統制は完全に崩壊した。
ミズ〜 ミズ〜
┗(^o^ )┓┗(^o^ )┓┗(^o^ )┓
┏┗ 三 ┏┗ 三 ┏┗ 三
疲労と乾きに侵された兵士たちはわれがちに河流に飛び込み
そこへ敵勢が駆けつけると一帯は殺戮の巷と化した。
/
オスナ _n(^o^ )┛
┗( ^o^)┓ ギャー ┗(^o^ )┛━(^o^ )┛ <_゚へ ┗ Y 三
┃┃ \ ・∴ ┗┗ ┏┗ 三 ゝゝ ̄ヽヽ 三
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|┗(^o^从人人从人┗(^o^人从人从| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ゚。o°┗(^o^ )┛ |
| ━(^o^ )┛ |
ここにいたってニキアスはギュリッポスに己が身を委ねた。
, -──- 、
/___ \
| ⌒ヽ\| ヽ 「ぼくの一命はスパルタの処置にゆだねる。
|+ |─| ヽ だからこの殺戮を中止して欲しい」
_c 、_ ノつiヽ |
(_U U_ ゙ | |) /
 ̄ ̄ ヽー´\ ヘ /
⊂| # l
ヽ二二_ / ̄ ̄ヽ
/^rヽ //  ̄ ̄`ヽ
l ノ、 /⌒ヽ \
ヽ、/ \/ l l
こうして戦闘は終わり、遠征軍は文字通り全滅したのだった。
遠征軍指揮官であるニキアスとデモステネスは処刑された。
彼らをスパルタに連れて帰って手柄を誇りたいギュリッポスはこれに反対したのだが、
結局はシュラクサイ人の要求に屈し彼らの復讐心に委ねたのであった。
___
/⌒/ // \
/ ⌒ ⌒ \ i / || /⌒ヽ
/ ノ \ ヽ| i 3 || 3 | | 「な、な、べつにいいだろ?」
i ∠ U ー\ | ./ ̄⊂⊃ ̄ `ヽ| |
|_/ へ へ\_| i .| |
( | | (゚| |∠| | Vヽ、____ ノ\_ ! \
(/ ! ー 、 ー !/ / | l | `ヽ ヽ
\ _ ./ ─- 、ヽ__ノ ヽ\ i
(/ .>ー──イ( ___ ヽ ∨ /
┌=/ l \/=\ノ \(_,_,_ ノ | /
│ / | \ ヽ ヽ、_,_,_)
| / ─, − 、 , -< ノ | |
 ̄ ̄ヽ _(__i_)U (_、、_ノ'i ̄ ̄ ̄ ̄\ | |
| .| .|
l二二二i二二二l
「う〜ん、しょうがないか」
アテナイが支配圏拡大を夢見たシケリア遠征はこのような悲惨な結末を迎えた。
この遠征で蒙ったアテナイの損失は、営々と築き上げた海上覇権の喪失という結果を招き
ついにはペロポネソス戦争における最終的な敗北に繋がったのである。
_, ─- 、
/⌒ \
/ / \ \
| / ―' \ ヽ 「ペリクレス以後の指導者たちは
| -、|─| ̄ ̄o|o ̄ iV 己こそ第一人者たらんとして民衆に媚び
| | d ヽ _ 人_/ 政策の指導権を民衆の恣意に委ねてしまった
┌ヽ/ヽ 二⊃
/ | / | : : : : :| その結果数多くの政治的過失が繰り返され
/ | \ (二二, (\ その最たるものがシケリア遠征であった」
| /  ̄ ̄ l三 |
|──/ \ `( /
トゥキュディデス
後にアテナイ市アカデミア街道沿いに石碑が建てられシケリア遠征の戦没者の名が刻まれた。
だがそこにニキアスの名は刻まれなかったそうである。
のび太のシケリア遠征 完